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5.王子との対面
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「なるほど、君がラフェリアか……確かに見覚えがある。この王城で働いていたメイドが、僕の婚約者とはな?」
目の前にいる男性は、私を訝し気に睨みつけてくる。
彼とは何度か顔を合わせたことがあるのだが、向こうは私のことを覚えていないらしい。
それは、当然と言えば当然だ。一メイドでしかなかった私の顔を、わざわざ覚えたりはしないだろう。
「父上は君のことを高く評価していた。いや、より正確に言えばイムティアが評価していたといえるだろうか。父上は妹のことを信じているからな。その言葉は全て鵜呑みにしたのだろう」
第一王子であるアラヴェド様は、私のことを少し警戒している様子だ。
彼にとって、私は父親が決めた婚約者である。そのため、私のことを探っているのだろう。
実の所、それは私も同じだ。噂は色々と聞いているが、私も彼本人と話すのは初めてだ。噂の真偽も含めて、彼という人間を見極める必要がある。
「もちろん、王女の侍女に選ばれるくらいだ。メイドとしての能力は高いのだろう。しかしそれは、所詮下働きの能力に過ぎない。王妃に求められる資質とは、まったく異なる話だ」
「……ええ、そうかもしれませんね」
「僕は次期国王になる。この国を背負っていくのだ。僕の妻は、そんな僕を支える役割がある。それに君が相応しいのかどうか、僕にとって重要なのはその点だ。つまり、父上やイムティアの評価など、宛てにならない」
アラヴェド様の口調からは、国王様やイムティア様への侮蔑の感情が伝わってきた。
いや、それだけではない。彼は私のことさえ、どこか見下している。
やはりアラヴェド様は、評判に違わぬ人物なのかもしれない。まだ知り合ってそれ程経っていないのに、私は既にそのような印象を抱いていた。
「言っておくが、僕は僕に逆らう者が嫌いだ。君は僕に対して、従順でなければならない。決して逆らうことなく、僕に従うことを約束してもらおう」
「……それは、承服しかねます。私にも私の感情と考えがあります。それに反することに賛同できると保証することはできません」
「ふん、早速逆らってきたな。やはり君のような者は僕の婚約者には相応しくないかもしれないな……」
反論をした私に、アラヴェド様は露骨に不快そうにしてみせた。
そういった態度には、覚えがある。妹もよく、そんな反応をしてきたのだ。
「私を従わせたいのなら、あなたの行動で示してください。あなたが正道を進むのならば、私はそれに付き従います。そうすれば私は、あなたの望む従順な妻でいられるでしょう」
「ふんっ……」
私の言葉に、アラヴェド様は鼻を鳴らした。
やはり彼は、妹と同じような人なのかもしれない。
わがままで傲慢、そんな彼が王位を継承する。その事実に、私はやっとイムティア様があそこまで思い詰めていた理由を理解するのだった。
目の前にいる男性は、私を訝し気に睨みつけてくる。
彼とは何度か顔を合わせたことがあるのだが、向こうは私のことを覚えていないらしい。
それは、当然と言えば当然だ。一メイドでしかなかった私の顔を、わざわざ覚えたりはしないだろう。
「父上は君のことを高く評価していた。いや、より正確に言えばイムティアが評価していたといえるだろうか。父上は妹のことを信じているからな。その言葉は全て鵜呑みにしたのだろう」
第一王子であるアラヴェド様は、私のことを少し警戒している様子だ。
彼にとって、私は父親が決めた婚約者である。そのため、私のことを探っているのだろう。
実の所、それは私も同じだ。噂は色々と聞いているが、私も彼本人と話すのは初めてだ。噂の真偽も含めて、彼という人間を見極める必要がある。
「もちろん、王女の侍女に選ばれるくらいだ。メイドとしての能力は高いのだろう。しかしそれは、所詮下働きの能力に過ぎない。王妃に求められる資質とは、まったく異なる話だ」
「……ええ、そうかもしれませんね」
「僕は次期国王になる。この国を背負っていくのだ。僕の妻は、そんな僕を支える役割がある。それに君が相応しいのかどうか、僕にとって重要なのはその点だ。つまり、父上やイムティアの評価など、宛てにならない」
アラヴェド様の口調からは、国王様やイムティア様への侮蔑の感情が伝わってきた。
いや、それだけではない。彼は私のことさえ、どこか見下している。
やはりアラヴェド様は、評判に違わぬ人物なのかもしれない。まだ知り合ってそれ程経っていないのに、私は既にそのような印象を抱いていた。
「言っておくが、僕は僕に逆らう者が嫌いだ。君は僕に対して、従順でなければならない。決して逆らうことなく、僕に従うことを約束してもらおう」
「……それは、承服しかねます。私にも私の感情と考えがあります。それに反することに賛同できると保証することはできません」
「ふん、早速逆らってきたな。やはり君のような者は僕の婚約者には相応しくないかもしれないな……」
反論をした私に、アラヴェド様は露骨に不快そうにしてみせた。
そういった態度には、覚えがある。妹もよく、そんな反応をしてきたのだ。
「私を従わせたいのなら、あなたの行動で示してください。あなたが正道を進むのならば、私はそれに付き従います。そうすれば私は、あなたの望む従順な妻でいられるでしょう」
「ふんっ……」
私の言葉に、アラヴェド様は鼻を鳴らした。
やはり彼は、妹と同じような人なのかもしれない。
わがままで傲慢、そんな彼が王位を継承する。その事実に、私はやっとイムティア様があそこまで思い詰めていた理由を理解するのだった。
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