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3.不安な婚約

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 国王様から呼び出された数日後、私に手紙が届いてきた。
 それは、お父様からの手紙である。そこには端的に、すぐに戻って来るようにと記されていた。
 という訳で、私はエルバラス侯爵家に帰る準備をしている。現状私に断る理由はないため、帰らざるを得ないのだ。

「ごめんなさい。こんな時に訪ねてしまって」
「いえ、お気になさらないでください。こうして支度をする無礼を許していただいていますし」
「こちらが急に押しかけたのですから、それは当然です」

 そんな私の元に、イムティア様が訪ねてきた。
 彼女は、ひどく神妙な面持ちをしている。それは恐らく、私のことを心配してくれているからなのだろう。

「……正直言って、お父様の判断には驚きました。まさか、ラフェリア嬢とお兄様を婚約させるなんて思いもしませんでした。その一因は、私にあると思います。私はお父様の前で、ラフェリア嬢のことを褒めていましたから」
「それは私にとっては、ありがたいことです。褒めたことを後悔したりはしないでください。それはなんというか、変な話です」

 私は、できるだけ明るくイムティア様の言葉に応えた。
 イムティア様は、私のことをよくわかっている。故に理解しているのだろう。今回の婚約が、私にとって幸福なものではないということを。
 しかしイムティア様に、それを気にしてもらいたくはない。これはもう仕方ないことだ。

「それに、少なくともエルバラス侯爵家のことはいつか向き合わなければならないことでしたからね。いつまでもここでメイドとして働けていたかは、正直微妙な所です」
「……しかし、友人があの兄と結ばれるという事実は心苦しいものなのです」
「確かに、アラヴェド様はいい噂は聞きませんが……そこまで言うことなのですか?」
「そこまで言えることなのです」

 イムティア様は、とても辛辣だった。実の兄に対して、相当思う所があるらしい。
 その気持ちも、わからない訳ではない。私ももしも友人が妹などと結ばれることがあったら、同じように言っただろう。
 だが、こうなってしまった以上は覚悟を決めるしかない。これは、私やイムティア様に覆せる婚約ではないのだ。

「……あなたを巻き込むつもりはありませんでしたが」
「イムティア様?」
「ラフェリア嬢、あなたに聞いてもらいたいことがあるのです。実は私は……お兄様の失脚を狙っているんです」
「……なんですって?」

 イムティア様の言葉に、私は思わず固まってしまった。
 彼女の顔は、真剣である。どうやらこれは、冗談の類ではないようだ。
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