3 / 66
3.不安な婚約
しおりを挟む
国王様から呼び出された数日後、私に手紙が届いてきた。
それは、お父様からの手紙である。そこには端的に、すぐに戻って来るようにと記されていた。
という訳で、私はエルバラス侯爵家に帰る準備をしている。現状私に断る理由はないため、帰らざるを得ないのだ。
「ごめんなさい。こんな時に訪ねてしまって」
「いえ、お気になさらないでください。こうして支度をする無礼を許していただいていますし」
「こちらが急に押しかけたのですから、それは当然です」
そんな私の元に、イムティア様が訪ねてきた。
彼女は、ひどく神妙な面持ちをしている。それは恐らく、私のことを心配してくれているからなのだろう。
「……正直言って、お父様の判断には驚きました。まさか、ラフェリア嬢とお兄様を婚約させるなんて思いもしませんでした。その一因は、私にあると思います。私はお父様の前で、ラフェリア嬢のことを褒めていましたから」
「それは私にとっては、ありがたいことです。褒めたことを後悔したりはしないでください。それはなんというか、変な話です」
私は、できるだけ明るくイムティア様の言葉に応えた。
イムティア様は、私のことをよくわかっている。故に理解しているのだろう。今回の婚約が、私にとって幸福なものではないということを。
しかしイムティア様に、それを気にしてもらいたくはない。これはもう仕方ないことだ。
「それに、少なくともエルバラス侯爵家のことはいつか向き合わなければならないことでしたからね。いつまでもここでメイドとして働けていたかは、正直微妙な所です」
「……しかし、友人があの兄と結ばれるという事実は心苦しいものなのです」
「確かに、アラヴェド様はいい噂は聞きませんが……そこまで言うことなのですか?」
「そこまで言えることなのです」
イムティア様は、とても辛辣だった。実の兄に対して、相当思う所があるらしい。
その気持ちも、わからない訳ではない。私ももしも友人が妹などと結ばれることがあったら、同じように言っただろう。
だが、こうなってしまった以上は覚悟を決めるしかない。これは、私やイムティア様に覆せる婚約ではないのだ。
「……あなたを巻き込むつもりはありませんでしたが」
「イムティア様?」
「ラフェリア嬢、あなたに聞いてもらいたいことがあるのです。実は私は……お兄様の失脚を狙っているんです」
「……なんですって?」
イムティア様の言葉に、私は思わず固まってしまった。
彼女の顔は、真剣である。どうやらこれは、冗談の類ではないようだ。
それは、お父様からの手紙である。そこには端的に、すぐに戻って来るようにと記されていた。
という訳で、私はエルバラス侯爵家に帰る準備をしている。現状私に断る理由はないため、帰らざるを得ないのだ。
「ごめんなさい。こんな時に訪ねてしまって」
「いえ、お気になさらないでください。こうして支度をする無礼を許していただいていますし」
「こちらが急に押しかけたのですから、それは当然です」
そんな私の元に、イムティア様が訪ねてきた。
彼女は、ひどく神妙な面持ちをしている。それは恐らく、私のことを心配してくれているからなのだろう。
「……正直言って、お父様の判断には驚きました。まさか、ラフェリア嬢とお兄様を婚約させるなんて思いもしませんでした。その一因は、私にあると思います。私はお父様の前で、ラフェリア嬢のことを褒めていましたから」
「それは私にとっては、ありがたいことです。褒めたことを後悔したりはしないでください。それはなんというか、変な話です」
私は、できるだけ明るくイムティア様の言葉に応えた。
イムティア様は、私のことをよくわかっている。故に理解しているのだろう。今回の婚約が、私にとって幸福なものではないということを。
しかしイムティア様に、それを気にしてもらいたくはない。これはもう仕方ないことだ。
「それに、少なくともエルバラス侯爵家のことはいつか向き合わなければならないことでしたからね。いつまでもここでメイドとして働けていたかは、正直微妙な所です」
「……しかし、友人があの兄と結ばれるという事実は心苦しいものなのです」
「確かに、アラヴェド様はいい噂は聞きませんが……そこまで言うことなのですか?」
「そこまで言えることなのです」
イムティア様は、とても辛辣だった。実の兄に対して、相当思う所があるらしい。
その気持ちも、わからない訳ではない。私ももしも友人が妹などと結ばれることがあったら、同じように言っただろう。
だが、こうなってしまった以上は覚悟を決めるしかない。これは、私やイムティア様に覆せる婚約ではないのだ。
「……あなたを巻き込むつもりはありませんでしたが」
「イムティア様?」
「ラフェリア嬢、あなたに聞いてもらいたいことがあるのです。実は私は……お兄様の失脚を狙っているんです」
「……なんですって?」
イムティア様の言葉に、私は思わず固まってしまった。
彼女の顔は、真剣である。どうやらこれは、冗談の類ではないようだ。
49
お気に入りに追加
2,041
あなたにおすすめの小説
玉の輿を狙う妹から「邪魔しないで!」と言われているので学業に没頭していたら、王子から求婚されました
歌龍吟伶
恋愛
王立学園四年生のリーリャには、一学年下の妹アーシャがいる。
昔から王子様との結婚を夢見ていたアーシャは自分磨きに余念がない可愛いらしい娘で、六年生である第一王子リュカリウスを狙っているらしい。
入学当時から、「私が王子と結婚するんだからね!お姉ちゃんは邪魔しないで!」と言われていたリーリャは学業に専念していた。
その甲斐あってか学年首位となったある日。
「君のことが好きだから」…まさかの告白!
私が出て行った後、旦那様から後悔の手紙がもたらされました
新野乃花(大舟)
恋愛
ルナとルーク伯爵は婚約関係にあったが、その関係は伯爵の妹であるリリアによって壊される。伯爵はルナの事よりもリリアの事ばかりを優先するためだ。そんな日々が繰り返される中で、ルナは伯爵の元から姿を消す。最初こそ何とも思っていなかった伯爵であったが、その後あるきっかけをもとに、ルナの元に後悔の手紙を送ることとなるのだった…。
初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。
義母様から「あなたは婚約相手として相応しくない」と言われたので、家出してあげました。
新野乃花(大舟)
恋愛
婚約関係にあったカーテル伯爵とアリスは、相思相愛の理想的な関係にあった。しかし、それを快く思わない伯爵の母が、アリスの事を執拗に口で攻撃する…。その行いがしばらく繰り返されたのち、アリスは自らその姿を消してしまうこととなる。それを知った伯爵は自らの母に対して怒りをあらわにし…。
【完結】私から全てを奪った妹は、地獄を見るようです。
凛 伊緒
恋愛
「サリーエ。すまないが、君との婚約を破棄させてもらう!」
リデイトリア公爵家が開催した、パーティー。
その最中、私の婚約者ガイディアス・リデイトリア様が他の貴族の方々の前でそう宣言した。
当然、注目は私達に向く。
ガイディアス様の隣には、私の実の妹がいた--
「私はシファナと共にありたい。」
「分かりました……どうぞお幸せに。私は先に帰らせていただきますわ。…失礼致します。」
(私からどれだけ奪えば、気が済むのだろう……。)
妹に宝石類を、服を、婚約者を……全てを奪われたサリーエ。
しかし彼女は、妹を最後まで責めなかった。
そんな地獄のような日々を送ってきたサリーエは、とある人との出会いにより、運命が大きく変わっていく。
それとは逆に、妹は--
※全11話構成です。
※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、ネタバレの嫌な方はコメント欄を見ないようにしていただければと思います……。
【完結】捨ててください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。
でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。
分かっている。
貴方は私の事を愛していない。
私は貴方の側にいるだけで良かったのに。
貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。
もういいの。
ありがとう貴方。
もう私の事は、、、
捨ててください。
続編投稿しました。
初回完結6月25日
第2回目完結7月18日
両親から謝ることもできない娘と思われ、妹の邪魔する存在と決めつけられて養子となりましたが、必要のないもの全てを捨てて幸せになれました
珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれたユルシュル・バシュラールは、妹の言うことばかりを信じる両親と妹のしていることで、最低最悪な婚約者と解消や破棄ができたと言われる日々を送っていた。
一見良いことのように思えることだが、実際は妹がしていることは褒められることではなかった。
更には自己中な幼なじみやその異母妹や王妃や側妃たちによって、ユルシュルは心労の尽きない日々を送っているというのにそれに気づいてくれる人は周りにいなかったことで、ユルシュルはいつ倒れてもおかしくない状態が続いていたのだが……。
出て行けと言われたのですから本当に出て行ってあげます!
新野乃花(大舟)
恋愛
フルード第一王子はセレナとの婚約関係の中で、彼女の事を激しく束縛していた。それに対してセレナが言葉を返したところ、フルードは「気に入らないなら出て行ってくれて構わない」と口にしてしまう。セレナがそんな大それた行動をとることはないだろうと踏んでフルードはその言葉をかけたわけであったが、その日の夜にセレナは本当に姿を消してしまう…。自分の行いを必死に隠しにかかるフルードであったが、それから間もなくこの一件は国王の耳にまで入ることとなり…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる