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1.王城での奉公

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 実の母親は、私が生まれてからすぐに亡くなってしまったらしい。
 それから私は、実の父親と継母、そして二人の間に生まれた妹と暮らしてきた。
 その三人との関係は良くない。実の父も含めて、三人は私の存在を疎んでいるのだ。

「そういう事情もあって、私はこちらに奉公しているのです」
「なるほど、あなたも色々と大変なのですね……」

 実家との折り合いが悪かった私は、王城でメイドとして働いていた。
 貴族の令嬢が、そういった所に奉公するということはそこまで珍しいことではない。ただ、私のように実家から逃げるために奉公している者はそういないのではないのだろうか。

「エルバラス侯爵家も、中々に荒れているようですね……」
「……エルバラス侯爵家も、ということはもしかしてアルバルド王家も?」
「ああいえ、ラフェリア嬢に比べれば、私の事情なんてものは大したことではありません」

 私の質問に、アルバルト王国の第一王女であるイムティア様は苦笑いを浮かべていた。
 それはつまり、王家でも何かしらの問題が起こっているということなのだろう。その問題が何なのかは、ある程度想像することができる。

「もしかして、アラヴェド様のことですか?」
「……わかってしまいますか?」
「その……あまりいい噂を聞きませんでしたから」

 王家の問題として真っ先に思いついたのが、第一王子であるアラヴェド様のことだった。
 彼の様々な噂を私は耳にしている。それらを総合すると、彼の評価はあまり高くないような気がしてしまう。
 そんな彼が、王位継承筆頭者であるというのは王家としては悩ましい問題なのかもしれない。その私の推測は、どうやら左程外れてはいないようだ。

「残念なことではありますが、お兄様は概ね噂通りの人ですよ。彼がこの王家を継ぐという事実には、不安を覚えずにはいられません」
「国王様は、アラヴェド様の噂を知らないのですか?」
「お父様は、お兄様の噂を信じていません。まあ、お兄様もお父様の前ではそれなりに体裁を保っていますから、それは仕方ないことでしょう。恐らく、お父様は特別なことでもなければお兄様に王位を継がせると思います。そういう考え方をする人ですからね」

 イムティア様からは、半ば諦めのような気持ちが伝わってきた。それだけ、兄のことで悩まされてきたということだろうか。
 私も、妹や両親には何度も悩まされてきた。そういう意味で、私達には似ている部分があるのかもしれない。

「……辛気臭い話は、これくらいにしましょうか。こんな話ばかりしていると、気分が落ち込んでしまいますからね」
「あ、はい。そうですね」

 イムティア様の言葉に、私はゆっくりと頷いた。
 エルバラス侯爵家のことを考えても仕方ない。私は今の仕事をきちんとこなすことに集中するべきだろう。
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