そちらから縁を切ったのですから、今更頼らないでください。

木山楽斗

文字の大きさ
41 / 44

41.必要ないもの

しおりを挟む
「お姉様、私はお姉様にエルシエット伯爵家の領地を買い戻していただきたいと思っています」
「領地を?」

 イフェリアは、私に対してゆっくりとそんなことを言ってきた。
 その言葉に、私は疑問符を浮かべる。どうして私が、そんなことをすると思えるのだろうか。
 私は元々、エルシエット伯爵家の借金を肩代わりしなかった。その時点で、この提案が断られることは読めると思うのだが。

「当然のことながら、ただとは言いません。お姉様には、それ相応の報酬をお支払いします」
「報酬? それは一体何かしら?」
「エルシエット伯爵家をお姉様に差し上げます」

 イフェリアは、真剣な顔で私を見ていた。
 今まで彼女とは幾度となくやり取りしてきたため、彼女のことはよくわかっている。
 故にその言葉に、嘘がないことがわかった。その奇妙な理解が、私を混乱させてくる。

「私は、エルシエット伯爵家の存続を望んでいます。私が失敗したということは、事実として認めてあげましょう。お姉様にエルシエット伯爵家を好きにしてもらって構いません」
「……」
「私のエルシエット伯爵家をお姉様に差し上げます。悪い話ではないでしょう? 貴族として返り咲くことができるのですから」

 イフェリアは、どこか勝ち誇ったような顔をしていた。
 それは、私がその提案を受け入れることを確信しているということなのだろう。
 彼女の中に、まさか家のためという考えがあったということは驚きだ。それ自体は、評価できる点といえるかもしれない。
 しかし彼女は、決定的な勘違いをしていた。私と彼女の間には、認識の齟齬があるのだ。

「あなたにとって、エルシエット伯爵家はとても大切なものなのね?」
「ええ? もちろんです。それが何か?」」
「でも、それはあなたにとっての話でしょう? 生憎私にとって、エルシエット伯爵家なんてものはどうでもいいものであるし、貴族に返り咲きたいなんて微塵も思っていないわ」
「……え?」

 私の言葉に、イフェリアは目を丸めていた。
 彼女にとって、この返答は予想外のものだったようだ。それが、その表情から伝わってくる。

「あなたが出した交換条件は、私にとって利益がないもの。つまり、交渉は不成立ということになるわね? まあ、あなたがまだ私に頼みたいというなら、別の交換材料を持ってくることね」
「は、伯爵家の地位ですよ? それが欲しくないのですか?」
「ええ、そう言ったでしょう? そんなものは、私には必要ないものよ」
「そ、そんなはずは……」

 イフェリアは、絶望的な表情をしていた。
 この価値観の違いは、彼女にとってそれだけ衝撃的だったということだろうか。
 しかし実際の所、私はもう貴族の地位には興味がなかった。そんなものがなくても、私は幸せなのだ。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの。

朝霧心惺
恋愛
「リリーシア・ソフィア・リーラー。冷酷卑劣な守銭奴女め、今この瞬間を持って俺は、貴様との婚約を破棄する!!」  テオドール・ライリッヒ・クロイツ侯爵令息に高らかと告げられた言葉に、リリーシアは純白の髪を靡かせ高圧的に微笑みながら首を傾げる。 「誰と誰の婚約ですって?」 「俺と!お前のだよ!!」  怒り心頭のテオドールに向け、リリーシアは真実を告げる。 「わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの」

【完結】恋人との子を我が家の跡取りにする? 冗談も大概にして下さいませ

水月 潮
恋愛
侯爵家令嬢アイリーン・エヴァンスは遠縁の伯爵家令息のシリル・マイソンと婚約している。 ある日、シリルの恋人と名乗る女性・エイダ・バーク男爵家令嬢がエヴァンス侯爵邸を訪れた。 なんでも彼の子供が出来たから、シリルと別れてくれとのこと。 アイリーンはそれを承諾し、二人を追い返そうとするが、シリルとエイダはこの子を侯爵家の跡取りにして、アイリーンは侯爵家から出て行けというとんでもないことを主張する。 ※設定は緩いので物語としてお楽しみ頂けたらと思います ☆HOTランキング20位(2021.6.21) 感謝です*.* HOTランキング5位(2021.6.22)

家も婚約者も、もう要りません。今の私には、すべてがありますから

有賀冬馬
恋愛
「嫉妬深い女」と濡れ衣を着せられ、家も婚約者も妹に奪われた侯爵令嬢エレナ。 雨の中、たった一人で放り出された私を拾ってくれたのは、身分を隠した第二王子でした。 彼に求婚され、王宮で輝きを取り戻した私が舞踏会に現れると、そこには没落した元家族の姿が……。 ねぇ、今さら私にすり寄ってきたって遅いのです。だって、私にはもう、すべてがあるのですから。

とある令嬢の勘違いに巻き込まれて、想いを寄せていた子息と婚約を解消することになったのですが、そこにも勘違いが潜んでいたようです

珠宮さくら
恋愛
ジュリア・レオミュールは、想いを寄せている子息と婚約したことを両親に聞いたはずが、その子息と婚約したと触れ回っている令嬢がいて混乱することになった。 令嬢の勘違いだと誰もが思っていたが、その勘違いの始まりが最近ではなかったことに気づいたのは、ジュリアだけだった。

「陛下、子種を要求します!」~陛下に離縁され追放される七日の間にかなえたい、わたしのたったひとつの願い事。その五年後……~

ぽんた
恋愛
「七日の後に離縁の上、実質上追放を言い渡す。そのあとは、おまえは王都から連れだされることになる。人質であるおまえを断罪したがる連中がいるのでな。信用のおける者に生活できるだけの金貨を渡し、託している。七日間だ。おまえの国を攻略し、おまえを人質に差し出した父王と母后を処分したわが軍が戻ってくる。そのあと、おまえは命以外のすべてを失うことになる」 その日、わたしは内密に告げられた。小国から人質として嫁いだ親子ほど年齢の離れた国王である夫に。 わたしは決意した。ぜったいに願いをかなえよう。たったひとつの望みを陛下にかなえてもらおう。 そう。わたしには陛下から授かりたいものがある。 陛下から与えてほしいたったひとつのものがある。 この物語は、その五年後のこと。 ※ハッピーエンド確約。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

お望み通り、別れて差し上げます!

珊瑚
恋愛
「幼なじみと子供が出来たから別れてくれ。」 本当の理解者は幼なじみだったのだと婚約者のリオルから突然婚約破棄を突きつけられたフェリア。彼は自分の家からの支援が無くなれば困るに違いないと思っているようだが……?

父の大事な家族は、再婚相手と異母妹のみで、私は元より家族ではなかったようです

珠宮さくら
恋愛
フィロマという国で、母の病を治そうとした1人の少女がいた。母のみならず、その病に苦しむ者は、年々増えていたが、治せる薬はなく、進行を遅らせる薬しかなかった。 その病を色んな本を読んで調べあげた彼女の名前は、ヴァリャ・チャンダ。だが、それで病に効く特効薬が出来上がることになったが、母を救うことは叶わなかった。 そんな彼女が、楽しみにしていたのは隣国のラジェスへの留学だったのだが、そのために必死に貯めていた資金も父に取り上げられ、義母と異母妹の散財のために金を稼げとまで言われてしまう。 そこにヴァリャにとって救世主のように現れた令嬢がいたことで、彼女の人生は一変していくのだが、彼女らしさが消えることはなかった。

【完結】婚約破棄された私が惨めだと笑われている?馬鹿にされているのは本当に私ですか?

なか
恋愛
「俺は愛する人を見つけた、だからお前とは婚約破棄する!」 ソフィア・クラリスの婚約者である デイモンドが大勢の貴族達の前で宣言すると 周囲の雰囲気は大笑いに包まれた 彼を賞賛する声と共に 「みろ、お前の惨めな姿を馬鹿にされているぞ!!」 周囲の反応に喜んだデイモンドだったが 対するソフィアは彼に1つだけ忠告をした 「あなたはもう少し考えて人の話を聞くべきだと思います」 彼女の言葉の意味を 彼はその時は分からないままであった お気に入りして頂けると嬉しいです 何より読んでくださる事に感謝を!

処理中です...