そちらから縁を切ったのですから、今更頼らないでください。

木山楽斗

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38.入れ知恵

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 ドナテリア一家は、悪質な金貸しであると聞いていた。
 そんな彼らの元を訪ねるのは、少々怖かった。ただ、今後の憂いを取り除くためにも必要なことではあっただろう。

『まさか、あなたからこちらを訪ねて来るとは驚きましたよ。実家であるエルシエット伯爵家を助けに来たということですか?』
『私は父に縁を切られました。故に、彼らを助ける義理はありません』
『なるほど、出回っている記事とは事情が違ったということでしょうか?』

 ドナテリア一家は、思っていたよりも私を丁重に迎えてくれた。
 彼らとしては、借金を返済できる財力を持つ私を、無下に扱う理由がなかったということだろうか。
 ただ、私は借金を返済するつもりなんてなかった。私は彼らと交渉をしに行ったのである。

『あなた方が、私の方に取り立てに来る可能性を考慮して、こちらから訪ねさせてもらいました』
『ほう、それは驚きましたね。返済する気がないというのに、わざわざ訪ねて来るなんて……』
『もちろん、手ぶらで来た訳ではありませんよ。私はあなた方に、とある事実をお知らせしに来たのです』

 エルシエット伯爵家が借金に苦しんでいる。それは、事前に聞いたためよくわかっていた。
 しかしながら、彼らにはまだ支払えるものがあることを私は知っていた。無論それは、彼らが決して手放そうとしないものであることもわかっていたが、私の身の安全のためにも、それらは売ってもらわなければならないものだったのだ。

『貴族というものにとって、領地は何よりも大切なものです。それを手放すということは、中々しないでしょう。あれこれ理由をつけて、その所有権を手放さないはずです。それさえ所有していれば、再起するチャンスがありますから』
『なるほど……つまりあなたは、それを売ることを迫れと言っている訳ですか?』
『ええ、周辺の貴族は、多分それなりの金額で領地を買い取ってくれると思いますよ』

 私は、ドナテリア一家に入れ知恵をしておいた。
 それは、彼らが私の元に来ないようにするための手だ。
 あくどいとはいえ、彼らは取り立てという分野に関するプロだ。きっと、お父様達から領地を取り上げてくれるだろう。

『さっきから聞いてりゃあ、バランドの兄貴に対して随分と偉そうじゃないか。そんなことをしなくても、あんたから取り立てりゃあ済むことだ。聞いた話によると、随分と金持ちみたいじゃないか』
『やめろ、ゴルザス』
『あ、兄貴?』
『申し訳ありませんね。こいつは少し血の気が多くて』
『いいえ、構いませんよ……さて、私達はそろそろ失礼させてもらいますね』
『ええ、わざわざお越しいただき、ありがとうございます』

 大柄な男が何かを言いたげだったが、私は一緒に来ていたギルバートと一緒にその場から去ることにした。そんな私が最後に聞いたのは、男達の会話である。

『兄貴、どうしてですか? 元々、あの女に取り立てるつもりだったんでしょう?』
『あの人を敵に回すのは得策じゃないってことさ。ラナキンス商会を敵に回したくはないし、何よりあの人は強かだ。下手に叩くよりも、落ちぶれている伯爵家に行った方がいい。ほら、お前も準備しろ』
『は、はい……』
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