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37.売り払えるもの(モブ視点)
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金貸しのドナテリア一家の一員であるバランドは、エルシエット伯爵家へと来ていた。
彼の目的は、ただ一つだ。ディクソン・エルシエットがした多額の借金を返してもらうことである。
ディクソンの努力によって、借金は多少返済された。しかしながら、それでもまだ残っている。それを払ってもらうために、バランドは伯爵家を訪ねてきたのだ。
「いやぁ、追い出されなくて安心しましたよ」
「……」
エルシエット伯爵は、明らかに不機嫌そうにしていた。それは目の前にいる二人が、本来であれば屋敷に入れたくない者達だからである。
しかしながら、それでも彼はバランドとその部下であるゴルザスを屋敷に入れた。入れざるを得ない状況であるということは、伯爵も理解しているのだ。
「さてと、それじゃあお話を始めましょうか。わかっていると思いますけど、俺達はディクソン・エルシエット氏が残した借金を返済してもらうためにこちらに来ました」
「……あいつをどこにやったのだ?」
「何のことですか? 俺達にはわからないことですね。例えわかっていたとしても、わざわざあなたに説明する必要がないことだ」
バランドは、エルシエット伯爵に対して冷たい目を向ける。
しかし、伯爵はそれに怯まない。流石にディクソンよりは経験を積んでいるため、そういう目に耐性があるのだ。
「無礼な奴らだ。私が誰であるか、知らないという訳でもあるまい……」
「すみませんね。生憎礼儀作法なんて学ぶ身分じゃありませんでしたからね。そもそも、俺達だって別に来たくてここに来た訳じゃないんですよ。お互いの精神衛生のためにも、ここは穏便にことを済ませるとしましょう」
「わかっているはずだ。こちらに渡せる金はないということが……」
「いいえ、まだありますよ」
エルシエット伯爵の言葉に、バランドは笑っていた。
ここに来るにあたって、バランドはとある人物と話をした。その人物から、彼はある種の知恵を得たのである。
「領地というものは、貴族にとってとても大切なものであるようですね? エルシエット伯爵家も、それなりの領地がある。その所有権は、まだあなた方にあるのでしょう?」
「……何を言っている?」
「領地ですよ。それを周囲の貴族に買い取ってもらえばいい。そのくらいの交渉くらいは、あなたにだってできるでしょう?」
「そ、それは……」
バランドの言葉によって、エルシエット伯爵は驚いていた。
そんな彼に対して、バランドは笑みを向ける。その選択が、どれ程に屈辱的なものであるかを知りながら。
そして彼は同時に感じていた。この提案を授けた人物が、どれだけ的確であったかということを。
彼の目的は、ただ一つだ。ディクソン・エルシエットがした多額の借金を返してもらうことである。
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「いやぁ、追い出されなくて安心しましたよ」
「……」
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しかしながら、それでも彼はバランドとその部下であるゴルザスを屋敷に入れた。入れざるを得ない状況であるということは、伯爵も理解しているのだ。
「さてと、それじゃあお話を始めましょうか。わかっていると思いますけど、俺達はディクソン・エルシエット氏が残した借金を返済してもらうためにこちらに来ました」
「……あいつをどこにやったのだ?」
「何のことですか? 俺達にはわからないことですね。例えわかっていたとしても、わざわざあなたに説明する必要がないことだ」
バランドは、エルシエット伯爵に対して冷たい目を向ける。
しかし、伯爵はそれに怯まない。流石にディクソンよりは経験を積んでいるため、そういう目に耐性があるのだ。
「無礼な奴らだ。私が誰であるか、知らないという訳でもあるまい……」
「すみませんね。生憎礼儀作法なんて学ぶ身分じゃありませんでしたからね。そもそも、俺達だって別に来たくてここに来た訳じゃないんですよ。お互いの精神衛生のためにも、ここは穏便にことを済ませるとしましょう」
「わかっているはずだ。こちらに渡せる金はないということが……」
「いいえ、まだありますよ」
エルシエット伯爵の言葉に、バランドは笑っていた。
ここに来るにあたって、バランドはとある人物と話をした。その人物から、彼はある種の知恵を得たのである。
「領地というものは、貴族にとってとても大切なものであるようですね? エルシエット伯爵家も、それなりの領地がある。その所有権は、まだあなた方にあるのでしょう?」
「……何を言っている?」
「領地ですよ。それを周囲の貴族に買い取ってもらえばいい。そのくらいの交渉くらいは、あなたにだってできるでしょう?」
「そ、それは……」
バランドの言葉によって、エルシエット伯爵は驚いていた。
そんな彼に対して、バランドは笑みを向ける。その選択が、どれ程に屈辱的なものであるかを知りながら。
そして彼は同時に感じていた。この提案を授けた人物が、どれだけ的確であったかということを。
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