そちらから縁を切ったのですから、今更頼らないでください。

木山楽斗

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20.強かな人

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 馬車に揺られながら、私は不思議な気持ちを抱いていた。
 一体どうして、こんなことになったのだろうか。改めて考えてみると、色々とおかしな話である。

『なるほど、事情はよくわかりました。アルシエラさん、どうぞ真相を確かめて来てください』
『い、いいんですか?』
『ええ、もちろんですとも。もしかしたらそれは、アルシャナ様が果たせなかったことかもしれません。それを果たすのは、アルシエラさんしかいないでしょう』

 ラナキンスさんは、私が東の拠点に行くことを快く了承してくれた。
 それなりに長い旅になり、色々と穴を開けることになるというのに、許してもらえたのは正直少し意外である。
 もっとも、元々私がいなくてもあの拠点は回っていた。ロッテアさんは、涙を流して私を見送ってくれたが、別に私が抜けた所でどうということはないということだろうか。

「アルシエラさん、心配ですか?」
「え?」
「いえ、そのような顔をしていましたから」
「えっと……」

 そんな私の憂いを、ギルバートさんは見抜いていた。
 その言葉によって、私は思考を切り替える。もう行くと決めたのだから、迷っている場合ではないと。

「まあ、少し複雑な心境ではありますね。私も、あの拠点でそれなりに力になれていると思い始めた矢先でしたから……」
「アルシエラさんは、必要とされていない訳ではありませんよ。ただラナキンスさんは、それよりも優先するべきことがあると考えただけでしょう」
「そうなのでしょうか?」
「……もしくは、これを好機と見たのかもしれません。あの方は強かですからね。ランバット伯爵家との繋がりを得られる可能性に賭けたのかもしれません」
「それは……」

 ギルバートさんの言葉に、私は少しだけ考えを変えることになった。
 ラナキンスさんのことを、私はただ優しい方だと思っていた。
 しかしながら彼の本質は商人である。人情もあるが、きっと損得だって考えるはずだ。

「確かに、身内がいる紹介を優遇する可能性はあるでしょうね。ただそれは、関係が良好な場合でしょう?」
「ええ、ですから賭けなんです。不利益を被る可能性も考慮して、彼はあなたを行かせることを選んだのだと思います」
「なるほど……それは確かに、強かですね」

 ギルバートさんの語るラナキンスさんに、私は思わず苦笑いを浮かべてしまった。
 思っていたよりもずっと、ラナキンスさんは酔狂な人であるようだ。なんというか、これから彼を見る目が少し変わってしまいそうである。
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