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16.当然の反応

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「……ところで、こちらの女性は一体誰なんですか?」

 商会の面々と和気あいあいと話していたギルバートさんは、そこで私に目を向けた。
 当然のことなのだが、私が彼のことを知らなかったように、彼も私のことは知らなかったのだろう。その顔には、疑問符が浮いている。
 考えてみれば、それは当然だ。見知らぬ女性が部下達から様付で呼ばれている。彼にとっては、訳がわからない状況であるだろう。

「ああ、彼女はアルシエラ様です。なんと言ったらいいんでしょうかね……ああ、そうだ。ギルバートさんは、アルシャナ様を知っていますよね?」
「え? ええ、父と一緒に何度かお会いしたことがありますが……」
「アルシエラ様は、あの方の娘さんなんですよ」
「……はい?」

 説明を受けたギルバートさんは、先程にも増して訳がわからないというような顔をしていた。
 確かに、今の説明だけでは少し理解が追いつかないだろう。私がアルシャナの娘であるということは、つまり私が貴族の娘であることを表している。その娘がどうして、ここで働いているのか、当然疑問に思うはずだ。

「……実は色々とあって、私は伯爵家を追放されてしまったんです」
「伯爵家を追放? そ、それはなんとも大変なことではありませんか」
「ええ、そこをお母様と縁があったラナキンスさんに拾ってもらって、こうしてこちらで働かせてもらっているという訳です」
「な、なるほど……」

 とりあえず私は、ギルバートさんに自分の事情を説明した。
 もう私は気にしていないことではあるが、他の人ではこの事情は話しにくいだろう。そう思ったからだ。
 その事情にも、ギルバートさんはひどく驚いている様子だ。まあ、それも当たり前かもしれない。私の事情は、かなり特殊である訳だし。

「まあ、色々とあった訳ですけど、それでもアルシエラ様は高貴な人ですからね。俺達は敬意を込めて、アルシエラ様と呼ばせてもらっている訳です」
「私は、やめて欲しいと言っているのですけれどね?」
「そうですか……いや、すみません。僕も、中々に無礼な態度を取ってしまいましたね?」
「お気になさらないでください。今の私は、あなたの部下にあたる訳ですから」
「ぶ、部下ですか……」

 ギルバートさんは、私に対して少し微妙な顔をしていた。
 なんというか、追い出されたといっても、やはり私は貴族の一員として扱われるらしい。事実としてもう私に地位はないのだが、皆の認識はそんなに変わらないである。
 商会の皆やギルバートさんの態度に、私はそんなことを思うのだった。
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