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12.堅い態度

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 伯爵家で受けた教育は、商人の分野においてそれなりに役に立つ能力であった。
 読み書きができることや、計算能力などの力は大いに活かすことができたのだ。
 もちろん失敗などもあったが、それでも私はラナキンス商会の人々から受け入れてもらえていた。商会に属する人達は、皆いい人ばかりだったのだ。

「皆さん、今日もお疲れ様です」
「ああ、アルシエラ様、お疲れ様です」
「あの、様はやめてください。何度も言っているじゃありませんか。私はもう貴族ではないと……」

 そんな温かい人達は、私に対してずっと堅苦しい態度を続けていた。
 貴族の家を追い出された娘である私を、商会の多くの人々は未だに上の身分だと思っている。私がいくら気を遣う必要がないと言っても、この態度なのだ。

「そんなことありませんよ。アルシエラ様はなんというか、高貴さがあるっていうか……」
「そうそう。俺達にはない何かがあるんです。気軽に付き合うなんて無理ですよ」
「そんなことありませんよ。私はただ貴族を追い出されたしがない娘です」

 私がここに来たばかりの時は、皆むしろもう少し砕けた態度だったような気がする。
 それから私を受け入れてくれたと思えるようになって、なんだか態度が固まった。お嬢様に対する態度に、なってしまったのだ。
 その変化がよくわからなくて、私は困惑しっぱなしである。もう平民として扱ってもらって構わないというのに、どうして皆頑ななのだろうか。

「まあ、貴族でなくなったというのは事実なのかもしれませんが、それでもアルシエラさんはしがない娘ではありませんからね」
「あ、ロッテアさん」

 そんな商会の中で、私が最も仲良くさせてもらっているのは、先輩であるロッテアさんである。
 彼女は、私の教育係でもあった人だ。その態度は最初と変わっていない。彼女は商会の中でも、まだ気軽な方なのだ。

「アルシエラさんは凛としていて、美しいですし、仕事もしっかりとこなしています。商会の男子諸君からしたら、憧れの的なんですよ」
「ロ、ロッテアさん、何を言っているんですか?」
「そうですよ。俺達は別に……」

 ロッテアさんの言葉に、周囲の男性達は顔を赤らめていった。
 それを見た私は、微妙な顔をすることしかできなかった。こういう時にどういう反応をすればいいか、よくわからない。

「まあ、アルシエラさんも色々なしがらみから解放された訳ですから、いい人なんか見つけてみたらいいんじゃありませんか?」
「え? いや、そんな……」

 ロッテアさんの軽口に、私は少し考えることになった。
 確かに、今の私には縛られるものはない。だが恋愛と言われてもいまいちピンとこない。
 そういう相手が、果たして見つかるのだろうか。この時の私は、そんなことを思っていた。
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