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11.知らなかったこと

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「いや、本当に助かりましたよ。即戦力が来てくれて、とても嬉しいです」
「即戦力、ですか……そういう訳でもないと思うんですが」

 ラナキンスさんの元で働くことになった私は、事務の仕事をすることになった。
 読み書きや計算が必要なその仕事は、貴族としてそれらの教育をしっかりと受けていた私が一番役に立てる分野だったのだ。

「いやいや、アルシエラさんのような人は貴重なんですよ。だって、貴族の教育といったら上等なんてものではないでしょう?」
「まあ、平民の方々と比べたらレベルが高い教育を受けさせてもらっているとは思いますが……でも、私には経験がありませんから」
「それは誰だって同じですからね。基礎の力があるっていうのがありがたいんです」

 先輩であるロッテアさんは、やけに私のことをありがたがっていた。
 期待されているようだが、それがやけに重たくのしかかってくる。
 いやもちろん、仕事である以上全力で励むつもりだ。しかしながら、即戦力なんて言われてしまうと思わず尻込みしてしまう。

「ラナキンス商会は、それなりに名の知れた商会なんですけどね。でも、そんなに人材が多いという訳でもないんですよ。力仕事なら、結構集まるんですけど、こっちの仕事ができる人が中々いなくて……」
「そういうものなのですか?」
「ええ、きちんとした教育を受けられている人というのは、少ないですからね……ああ、別にアルシエラさんのことを批判している訳ではありませんよ」
「……いえ、それは私達の不徳の至る所ですから」

 ロッテアさんの言葉に、私は苦笑いを浮かべてしまった。
 平民が満足に教育を受けられない。その現状の責任は、私達貴族にあるといえる。
 もちろん、私はそういう立場になる前に貴族から追い出された訳だが、なんだかとても申し訳ない気持ちになっていた。

「私にももっと色々なことができたような気がするんですけど……」
「そんな、アルシエラさんはまだまだ若いですし、そういうことに関われる立場ではないでしょう?」
「そうなんですけど、私は平民の方々のことを全然知らなかったんだなって、実感してしまって……」
「そ、それは仕方ないことですよ。な、なんだかすみません。変なことを言ってしまって……」
「いえ、お気になさらず。私が勝手に気にしてしまっただけですから……」

 私は、意識を切り替える。勝手に気にして落ち込んでいる場合ではない。そもそも私は、もう貴族ではないのだし、そんなことを考えたって仕方ないことだ。
 これから私は、商人として生きていくのである。意識を切り替えて、その仕事にしっかりと励まなければならないのだ。
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