9 / 44
9.役に立つなら
しおりを挟む
※登場人物の名前が被っていたので、修正しました。(バーキントン→ラナキンス)
「アルシエラ様は、これからどうされるつもりですか?」
「とりあえず、拠点を決めて仕事を探すつもりです。お母様が残してくれた遺産はありますが、やはり生活を続けていくにはお金が必要ですから」
ラナキンスさんは、私のことを心配してくれていた。
亡きお母様とは、本当に懇意にしていたのだろう。その表情から、それがよく伝わってくる。
「……もしあなたさえよろしければ、私の元で働きませんか?」
「え?」
「あなたを雇わせて欲しいのです。私の元で商人としての道を歩みませんか?」
そこでラナキンスさんは、そのような提案をしてきた。
仕事について色々と悩んでいた私にとって、それは願ってもいない提案であった。すぐにでも頷いて受け入れたいくらいである。
しかし私は、それを飲み込んだ。先に確認しておかなければならないことがあったからである。
「非常にありがたい提案であると思いますが……いいんですか? 私には商売の経験なんてありません。いえそれ所か、貴族として生活してきたので、仕事の経験なんて何もないんです。そんな私を雇って、大丈夫なのでしょうか?」
「問題はありません。仕事は覚えていってくださればいいだけですから。アルシエラ様、ここで重要なのは人柄なのですよ」
「人柄?」
「あなたは、アルシャナ様の気質を引き継いでいる。そんなあなたなら商人として成功すると私は思っています。あなたには人を惹きつける何かがありますから」
「そ、そうでしょうか……」
ラナキンスさんの論に、私は疑問を覚えていた。
彼は、私に何かしらのカリスマがあると思っているようだが、正直そんな自信はまったくない。
今まで私は、誰を惹きつけたことなんてなかった。ラナキンスさん程の人がそういうならそうなのかもしれないが、私は少々懐疑的である。
「そもそも、能力という面においても、あなたは非常に優秀でしょう。貴族としての教育を受けてきた訳ですからね」
「え? あ、そうなのですか?」
「まあ、貴族の方からすればわからないことかもしれませんが、そういうものなのです」
「なるほど……」
ラナキンスさんが続いて説明してくれたことは、私にとっても非常に納得できるものだった。
よく考えてみれば、平民は満足に教育を受けられない人も多いという。私が当たり前のように身に着けている能力も、他者から見ればきっと特別なものなのだ。
それなら、そういった能力を活かしていけばいいだろう。役に立てることがあるというなら、もう迷う必要はない。
「えっと、それならよろしくお願いします」
「ええ、これからは仕事仲間として頑張っていきましょう」
私に対して、ラナキンスさんは笑顔を浮かべてくれた。
こうして私は、商人としての道を歩むことになったのである。
「アルシエラ様は、これからどうされるつもりですか?」
「とりあえず、拠点を決めて仕事を探すつもりです。お母様が残してくれた遺産はありますが、やはり生活を続けていくにはお金が必要ですから」
ラナキンスさんは、私のことを心配してくれていた。
亡きお母様とは、本当に懇意にしていたのだろう。その表情から、それがよく伝わってくる。
「……もしあなたさえよろしければ、私の元で働きませんか?」
「え?」
「あなたを雇わせて欲しいのです。私の元で商人としての道を歩みませんか?」
そこでラナキンスさんは、そのような提案をしてきた。
仕事について色々と悩んでいた私にとって、それは願ってもいない提案であった。すぐにでも頷いて受け入れたいくらいである。
しかし私は、それを飲み込んだ。先に確認しておかなければならないことがあったからである。
「非常にありがたい提案であると思いますが……いいんですか? 私には商売の経験なんてありません。いえそれ所か、貴族として生活してきたので、仕事の経験なんて何もないんです。そんな私を雇って、大丈夫なのでしょうか?」
「問題はありません。仕事は覚えていってくださればいいだけですから。アルシエラ様、ここで重要なのは人柄なのですよ」
「人柄?」
「あなたは、アルシャナ様の気質を引き継いでいる。そんなあなたなら商人として成功すると私は思っています。あなたには人を惹きつける何かがありますから」
「そ、そうでしょうか……」
ラナキンスさんの論に、私は疑問を覚えていた。
彼は、私に何かしらのカリスマがあると思っているようだが、正直そんな自信はまったくない。
今まで私は、誰を惹きつけたことなんてなかった。ラナキンスさん程の人がそういうならそうなのかもしれないが、私は少々懐疑的である。
「そもそも、能力という面においても、あなたは非常に優秀でしょう。貴族としての教育を受けてきた訳ですからね」
「え? あ、そうなのですか?」
「まあ、貴族の方からすればわからないことかもしれませんが、そういうものなのです」
「なるほど……」
ラナキンスさんが続いて説明してくれたことは、私にとっても非常に納得できるものだった。
よく考えてみれば、平民は満足に教育を受けられない人も多いという。私が当たり前のように身に着けている能力も、他者から見ればきっと特別なものなのだ。
それなら、そういった能力を活かしていけばいいだろう。役に立てることがあるというなら、もう迷う必要はない。
「えっと、それならよろしくお願いします」
「ええ、これからは仕事仲間として頑張っていきましょう」
私に対して、ラナキンスさんは笑顔を浮かべてくれた。
こうして私は、商人としての道を歩むことになったのである。
84
お気に入りに追加
2,163
あなたにおすすめの小説

わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの。
朝霧心惺
恋愛
「リリーシア・ソフィア・リーラー。冷酷卑劣な守銭奴女め、今この瞬間を持って俺は、貴様との婚約を破棄する!!」
テオドール・ライリッヒ・クロイツ侯爵令息に高らかと告げられた言葉に、リリーシアは純白の髪を靡かせ高圧的に微笑みながら首を傾げる。
「誰と誰の婚約ですって?」
「俺と!お前のだよ!!」
怒り心頭のテオドールに向け、リリーシアは真実を告げる。
「わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの」

義母様から「あなたは婚約相手として相応しくない」と言われたので、家出してあげました。
新野乃花(大舟)
恋愛
婚約関係にあったカーテル伯爵とアリスは、相思相愛の理想的な関係にあった。しかし、それを快く思わない伯爵の母が、アリスの事を執拗に口で攻撃する…。その行いがしばらく繰り返されたのち、アリスは自らその姿を消してしまうこととなる。それを知った伯爵は自らの母に対して怒りをあらわにし…。

私が出て行った後、旦那様から後悔の手紙がもたらされました
新野乃花(大舟)
恋愛
ルナとルーク伯爵は婚約関係にあったが、その関係は伯爵の妹であるリリアによって壊される。伯爵はルナの事よりもリリアの事ばかりを優先するためだ。そんな日々が繰り返される中で、ルナは伯爵の元から姿を消す。最初こそ何とも思っていなかった伯爵であったが、その後あるきっかけをもとに、ルナの元に後悔の手紙を送ることとなるのだった…。

幼馴染だけを優先するなら、婚約者はもう不要なのですね
新野乃花(大舟)
恋愛
アリシアと婚約関係を結んでいたグレイ男爵は、自身の幼馴染であるミラの事を常に優先していた。ある日、グレイは感情のままにアリシアにこう言ってしまう。「出て行ってくれないか」と。アリシアはそのままグレイの前から姿を消し、婚約関係は破棄されることとなってしまった。グレイとミラはその事を大いに喜んでいたが、アリシアがいなくなったことによる弊害を、二人は後に思い知ることとなり…。

婚約破棄された令嬢のささやかな幸福
香木陽灯(旧:香木あかり)
恋愛
田舎の伯爵令嬢アリシア・ローデンには婚約者がいた。
しかし婚約者とアリシアの妹が不貞を働き、子を身ごもったのだという。
「結婚は家同士の繋がり。二人が結ばれるなら私は身を引きましょう。どうぞお幸せに」
婚約破棄されたアリシアは潔く身を引くことにした。
婚約破棄という烙印が押された以上、もう結婚は出来ない。
ならば一人で生きていくだけ。
アリシアは王都の外れにある小さな家を買い、そこで暮らし始める。
「あぁ、最高……ここなら一人で自由に暮らせるわ!」
初めての一人暮らしを満喫するアリシア。
趣味だった刺繍で生計が立てられるようになった頃……。
「アリシア、頼むから戻って来てくれ! 俺と結婚してくれ……!」
何故か元婚約者がやってきて頭を下げたのだ。
しかし丁重にお断りした翌日、
「お姉様、お願いだから戻ってきてください! あいつの相手はお姉様じゃなきゃ無理です……!」
妹までもがやってくる始末。
しかしアリシアは微笑んで首を横に振るばかり。
「私はもう結婚する気も家に戻る気もありませんの。どうぞお幸せに」
家族や婚約者は知らないことだったが、実はアリシアは幸せな生活を送っていたのだった。
病弱を演じる妹に婚約者を奪われましたが、大嫌いだったので大助かりです
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」「ノベルバ」に同時投稿しています。
『病弱を演じて私から全てを奪う妹よ、全て奪った後で梯子を外してあげます』
メイトランド公爵家の長女キャメロンはずっと不当な扱いを受け続けていた。天性の悪女である妹のブリトニーが病弱を演じて、両親や周りの者を味方につけて、姉キャメロンが受けるはずのモノを全て奪っていた。それはメイトランド公爵家のなかだけでなく、社交界でも同じような状況だった。生まれて直ぐにキャメロンはオーガスト第一王子と婚約していたが、ブリトニーがオーガスト第一王子を誘惑してキャメロンとの婚約を破棄させようとしたいた。だがキャメロンはその機会を捉えて復讐を断行した。

婚約破棄されるのらしいで、今まで黙っていた事を伝えてあげたら、婚約破棄をやめたいと言われました
新野乃花(大舟)
恋愛
ロベルト第一王子は、婚約者であるルミアに対して婚約破棄を告げた。しかしその時、ルミアはそれまで黙っていた事をロベルトに告げることとした。それを聞いたロベルトは慌てふためき、婚約破棄をやめたいと言い始めるのだったが…。

母の中で私の価値はゼロのまま、家の恥にしかならないと養子に出され、それを鵜呑みにした父に縁を切られたおかげで幸せになれました
珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれたケイトリン・オールドリッチ。跡継ぎの兄と母に似ている妹。その2人が何をしても母は怒ることをしなかった。
なのに母に似ていないという理由で、ケイトリンは理不尽な目にあい続けていた。そんな日々に嫌気がさしたケイトリンは、兄妹を超えるために頑張るようになっていくのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる