そちらから縁を切ったのですから、今更頼らないでください。

木山楽斗

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6.吹っ切れたら

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「アルシエラ、お前にはこの伯爵家を出て行ってもらう」

 ディクソン様に婚約破棄をされたから数日後、私はお父様からそんなことを言われた。
 それは、予想外の言葉という訳でもない。先日は色々とあったので、そういうことを言われるかもしれないとは思っていたのだ。

「……どうしてですか?」
「これは、イフェリアの提案だ。どうやらお前は、あの子を悲しませたらしいな?」
「悲しませた? 一体どの言葉のことでしょうか?」
「このエルシエット伯爵家を支配すると言っただろう!」

 お父様の言葉に、私は何も答えなかった。
 そんなことは言った覚えがない。そう言っても恐らくは無駄だろう。お父様が、私の話なんて聞いてくれるはずはない。

「思い上がるなよ。お前は所詮、我々の傀儡に過ぎないというのに……このエルシエット伯爵家を、お前なんかに渡すものか!」
「……別にこんな家、欲しいなんて思いませんよ」
「なんだと?」

 私は思わず、お父様に言い返していた。
 出て行くように言われたからだろうか、私の口はいつもより緩くなってしまっているようだ。
 しかし、それでもいいかもしれない。いっそのこと、今までため込んでいたものを吐き出した方が、清々するような気がする。

「このエルシエット伯爵家に、そんな価値なんてないと言っているんですよ」
「な、何?」
「確かに、地位としてはすごいかもしれません。伯爵、ですからね。でも、エルシエット伯爵家の品性は最悪です。そんな家を継いだって、意味なんてありませんよ」
「なっ、我らを侮辱するとは……」

 お父様は、拳を握り締めていた。
 流石の彼も、エルシエット伯爵家を侮辱されるのは、気に入らなかったのだろうか。今まで見たことないくらい、怒りをあらわにしている。

「謝っていれば、許してやってものの……お前との縁は、切らせてもらう」
「おやおや、まさか冗談で出て行けなんて言ったんですか? いい大人がそんなことを言うなんて、みっともないではありませんか」
「お、お前……」

 私は特に恐れることもなく、お父様に対して言葉をかけられていた。
 それには、自分でも驚いている。今まで恐ろしいと思っていたはずの彼が、今は何故か矮小に見える。
 追い出されると言われて、吹っ切れたといった所だろうか。なんだか私の体は、いつもよりもとても軽かった。

「出て行けというなら、出て行きますよ。縁を切りたいというなら、切らせていただきます。安心してください。二度とここには戻りませんよ」
「な、なんだと……」

 私は踵を返して、お父様から離れていく。
 なんというか、気分はとても良かった。こんなことなら、最初から出て行く選択をしていればよかったと思うくらいだ。もちろん、実際の所そんな選択肢を取れる勇気がなかったから、今までの立場に甘んじていた訳ではあるが。
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