13 / 141
私の婚約者(イルフェア視点)
しおりを挟む
「王妃の座に興味はあるか?」
初めて会った婚約者から、最初にそう言われたことは、今でもよく覚えている。
私の婚約者は、この国の第二王子キルクス様だ。王位継承権を持つ彼から、そんなことを言われた際に、私はひどく困惑していた。
正直言って、王妃の座なんてものには露ほどに興味がなかった。ただ、そう言っていいのかは少し考えるべきことだったのだ。
こんなことを聞いてくるのだから、彼が求めているのは興味があるという答えだと思った。そのため、私は素直に答えるべきか少し躊躇ったのである。
「……いいえ、まったく興味がありません」
悩んだ末、私は素直に言うことにした。本心を隠した所で、それは無駄なことだと思ったからである。
もしそれで王子を怒らせて、その結果この婚約がなくなったとしても、それはそれでいいのではないかと思った。
婚約破棄の一つでもされたら、私も特別ではなくなるだろう。そんな打算も、心の中にはあったのかもしれない。
「そうか。素晴らしい心掛けだ」
「え?」
「安心したぞ。そう答えることができる者が、俺の婚約者になってくれて」
私の予想とは違い、王子は私の返答に喜んでいた。
その反応が、正直よくわからなかった。あの質問をしておいて、こんな答えを求めていたなんてあるのだろうか。
「俺は、王の座に興味はない。あそこには、兄上……ガルディアスが座るべきだと思っているし、座らせようと思っているからだ」
「……お兄様に?」
「ああ、兄上は王の器を持っている。それは、政治の才能という訳ではない。人の上に立つ力……人を惹きつける力とでもいうべきか。それを持っているのだ」
「人を惹きつける力……」
キルクス様は、お兄様のガルディアス様に対してそんな感想を抱いているらしい。
人を惹きつける力。それには、とても興味があった。もしかしたら、私もそれを備えているかもしれないからだ。
「兄上が王になり、俺はそれを支える。それが一番いい形であると、俺は思っているのだ。故に、俺は王妃になりたいなどという余計な野心を持っている者を必要としていない。だから、お前の言葉に安心したのだ」
「……なるほど、そういうことだったのですね」
キルクス様の考えは、少し不思議なものだった。
自分ではなく、兄を王にしたい。そう考えるのは、それ程彼のお兄様に人を惹きつける力があるということだろうか。
「すごい人なのですね……ガルディアス様は」
「ああ、そうだな……確かに、兄上は素晴らしい人物だと思う」
キルクス様のお兄様を語る際の目は、見たことがあった。私に憧れを抱く者達と同じような目をしているのだ。
やはり、ガルディアス様は私と同じような人なのだろう。私は、そんな感想を抱くのだった。
初めて会った婚約者から、最初にそう言われたことは、今でもよく覚えている。
私の婚約者は、この国の第二王子キルクス様だ。王位継承権を持つ彼から、そんなことを言われた際に、私はひどく困惑していた。
正直言って、王妃の座なんてものには露ほどに興味がなかった。ただ、そう言っていいのかは少し考えるべきことだったのだ。
こんなことを聞いてくるのだから、彼が求めているのは興味があるという答えだと思った。そのため、私は素直に答えるべきか少し躊躇ったのである。
「……いいえ、まったく興味がありません」
悩んだ末、私は素直に言うことにした。本心を隠した所で、それは無駄なことだと思ったからである。
もしそれで王子を怒らせて、その結果この婚約がなくなったとしても、それはそれでいいのではないかと思った。
婚約破棄の一つでもされたら、私も特別ではなくなるだろう。そんな打算も、心の中にはあったのかもしれない。
「そうか。素晴らしい心掛けだ」
「え?」
「安心したぞ。そう答えることができる者が、俺の婚約者になってくれて」
私の予想とは違い、王子は私の返答に喜んでいた。
その反応が、正直よくわからなかった。あの質問をしておいて、こんな答えを求めていたなんてあるのだろうか。
「俺は、王の座に興味はない。あそこには、兄上……ガルディアスが座るべきだと思っているし、座らせようと思っているからだ」
「……お兄様に?」
「ああ、兄上は王の器を持っている。それは、政治の才能という訳ではない。人の上に立つ力……人を惹きつける力とでもいうべきか。それを持っているのだ」
「人を惹きつける力……」
キルクス様は、お兄様のガルディアス様に対してそんな感想を抱いているらしい。
人を惹きつける力。それには、とても興味があった。もしかしたら、私もそれを備えているかもしれないからだ。
「兄上が王になり、俺はそれを支える。それが一番いい形であると、俺は思っているのだ。故に、俺は王妃になりたいなどという余計な野心を持っている者を必要としていない。だから、お前の言葉に安心したのだ」
「……なるほど、そういうことだったのですね」
キルクス様の考えは、少し不思議なものだった。
自分ではなく、兄を王にしたい。そう考えるのは、それ程彼のお兄様に人を惹きつける力があるということだろうか。
「すごい人なのですね……ガルディアス様は」
「ああ、そうだな……確かに、兄上は素晴らしい人物だと思う」
キルクス様のお兄様を語る際の目は、見たことがあった。私に憧れを抱く者達と同じような目をしているのだ。
やはり、ガルディアス様は私と同じような人なのだろう。私は、そんな感想を抱くのだった。
259
お気に入りに追加
3,344
あなたにおすすめの小説
【完】嫁き遅れの伯爵令嬢は逃げられ公爵に熱愛される
えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
リリエラは母を亡くし弟の養育や領地の執務の手伝いをしていて貴族令嬢としての適齢期をやや逃してしまっていた。ところが弟の成人と婚約を機に家を追い出されることになり、住み込みの働き口を探していたところ教会のシスターから公爵との契約婚を勧められた。
お相手は公爵家当主となったばかりで、さらに彼は婚約者に立て続けに逃げられるといういわくつきの物件だったのだ。
少し辛辣なところがあるもののお人好しでお節介なリリエラに公爵も心惹かれていて……。
22.4.7女性向けホットランキングに入っておりました。ありがとうございます 22.4.9.9位,4.10.5位,4.11.3位,4.12.2位
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

【完結】王太子殿下が幼馴染を溺愛するので、あえて応援することにしました。
かとるり
恋愛
王太子のオースティンが愛するのは婚約者のティファニーではなく、幼馴染のリアンだった。
ティファニーは何度も傷つき、一つの結論に達する。
二人が結ばれるよう、あえて応援する、と。

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。

婚約破棄を兄上に報告申し上げます~ここまでお怒りになった兄を見たのは初めてでした~
ルイス
恋愛
カスタム王国の伯爵令嬢ことアリシアは、慕っていた侯爵令息のランドールに婚約破棄を言い渡された
「理由はどういったことなのでしょうか?」
「なに、他に好きな女性ができただけだ。お前は少し固過ぎたようだ、私の隣にはふさわしくない」
悲しみに暮れたアリシアは、兄に婚約が破棄されたことを告げる
それを聞いたアリシアの腹違いの兄であり、現国王の息子トランス王子殿下は怒りを露わにした。
腹違いお兄様の復讐……アリシアはそこにイケない感情が芽生えつつあったのだ。

大公殿下と結婚したら実は姉が私を呪っていたらしい
Ruhuna
恋愛
容姿端麗、才色兼備の姉が実は私を呪っていたらしい
そんなこととは知らずに大公殿下に愛される日々を穏やかに過ごす
3/22 完結予定
3/18 ランキング1位 ありがとうございます
旦那様は大変忙しいお方なのです
あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。
しかし、その当人が結婚式に現れません。
侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」
呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。
相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。
我慢の限界が――来ました。
そちらがその気ならこちらにも考えがあります。
さあ。腕が鳴りますよ!
※視点がころころ変わります。
※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです
MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。
しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。
フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。
クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。
ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。
番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。
ご感想ありがとうございます!!
誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。
小説家になろう様に掲載済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる