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92.心を折って(アドルグside)
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「お、お会いできて嬉しいです、レフティス様……」
初めは固まっていたマネリアだったが、想い人であるレフティスと対面できたこと喜んでいるようだった。
何故、彼がそこに来たのか。それを彼女は正しく理解していないらしい。それを悟りながら、アドルグはレフティスの方を見た。彼がどのような言葉を返すのか、注目しているのだ。
「まず言っておきましょうか。僕はエフェリア嬢のことを愛しています」
「……え?」
「そんな彼女を傷つけようとしたあなたのことが、私は許せません。正直な所、本来であるならば顔も見たくないくらいです」
「そ、そんな……」
喜んでいたマネリアの表情は、どんどんと歪んでいった。
想い人からの明確な拒絶は、彼女にとってこれ以上ない程に堪えるものであったのだろう。
しかしながら、アドルグは同情など一切していなかった。それはマネリア嬢の身から出た錆でしかないからだ。
「大体、私はあなたのことをそれ程知っている訳ではありません。あなたの方もそうだと思っています。一体あなたは、私の何を知っているのでしょうか?」
「し、知っています。レフティス様は素敵な方で……」
「あなたは私が婚約者を傷つけられて、何も思わない冷酷な人間であると思っていたのですよね。今回の件から考えると、そうなります」
「い、いや、そんなことは……」
「心外ですね。そういう人だと思われていたことが……やはりあなたと私は、相性が悪いということなのでしょうね」
「ち、違います!」
ゆっくりと首を横に振るレフティスに対して、マネリアは手を伸ばした。
しかし、当然その手を取るものなどはいない。レフティスはゆっくりと、彼女に背を向ける。
「マネリア嬢、どうかもう私達には関わらないでください」
「……え?」
「あなたが私のことを曲がりなりにも愛しているというなら、そっとしておいていただきたい。考える時間は、これからいくらでもあります。何年先になるかはわかりませんが、出て来た時に更生していることを、せめて願っていますよ」
レフティスはそう言い残して、地下牢から出て行った。
それを見届けたから、アドルグはマネリアの方を改めて見る。意気消沈した彼女は、項垂れて動かない。その心は、完全に折れたようだ。
「……無論、ヴェルード公爵家もあなたの更生を願っている。寛大な我が弟と妹達に感謝するのだな」
アドルグは、自分の言葉がマネリアに届いていないということを理解した。
既に彼女の中にあった希望というものは、打ち砕かれている。そこから立ち直るということには、難しいことであるようだ。
ただアドルグにとっては、その方が都合が良い。彼の優先するべきことは、妹の安全だ。マネリア嬢が気力を失ったというなら、彼の望みは叶ったといえる。
初めは固まっていたマネリアだったが、想い人であるレフティスと対面できたこと喜んでいるようだった。
何故、彼がそこに来たのか。それを彼女は正しく理解していないらしい。それを悟りながら、アドルグはレフティスの方を見た。彼がどのような言葉を返すのか、注目しているのだ。
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「……え?」
「そんな彼女を傷つけようとしたあなたのことが、私は許せません。正直な所、本来であるならば顔も見たくないくらいです」
「そ、そんな……」
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