妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?

木山楽斗

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86.寛大な措置を

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「アドルグお兄様、私なら大丈夫です」
「何?」

 アドルグお兄様の言葉に答えたのは、オルディアお兄様ではなくエフェリアお姉様であった。
 お姉様は、ゆっくりと首を横に振っている。それはアドルグお兄様の判断を否定しているということなのだろう。

「私のことは、レフティス様が守ってくれますから。彼女の命を奪うのは、あまり気が進みません。甘いのかもしれませんが……それでも、オルディアを傷つけられても、私はそう思ってしまいます」
「エフェリア……」

 エフェリアお姉様は、自分の意見をはっきりと述べた。
 オルディアお兄様に最も近しいお姉様が、そのような判断をしている。それはアドルグお兄様の心を揺さぶるものだったのかもしれない。珍しくその目を丸めている。
 私にとっても、その意見はなんとも受け入れやすいものであった。やはり、人の命を奪うということは気が引ける。それはできるだけで、避けたい所だ。

「……あの男に頼るというのか」
「え?」
「あ、まずい。これはアドルグお兄様の例のあれだわ」

 アドルグお兄様の言葉に、イフェネアお姉様がその表情を歪めた。
 私にもわかる。お兄様は今、本題と外れた所に反応しているのだ。まだエフェリアお姉様の婚約を、唯一受け入れていないから。

「イフェネア姉上、アドルグ兄上のことを頼めますか?」
「え? ああ、ええ、そうね。お兄様、少し席を外しましょうか?」
「何? 何故、俺が……」
「はいはい。アドルグお兄様、行きましょうね」

 ウェリダンお兄様の指示によって、イフェネアお姉様がアドルグお兄様を連れて行った。
 レフティス様のことは今、関係がない。アドルグお兄様がいたら、そのことについて色々と言うだろう。故に部屋から一旦出て行ってもらうようだ。

「……まあ、本人達がそう言っているというなら、その意思を尊重する必要はあるのかもしれませんね」
「ウェリダンお兄様は、アドルグお兄様派ではないの?」
「もちろん、僕はどちらかというとアドルグ兄上の判断を支持しますよ。しかし、三人の気持ちがわからないという訳でもありません。単純に気が引けますからね」

 ウェリダンお兄様は、幾分か落ち着いているようだった。
 アドルグお兄様が変になったからだろうか。この場のまとめ役としての自覚をしたようだ。

「まあ、マネリア嬢も牢屋の中で反省するかもしれません。少なくとも、数十年は出て来られないように取り計らいます。そして出て来た時に彼女が反省していないというなら、非情な手段も辞しません。そんな所ですかね」

 ウェリダンお兄様は、今回の件をそのように結論付けた。
 それは私達にとっても、納得できるものである。マネリア嬢が、長い刑期の中でしっかりと反省してくれると良いのだが。
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