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82.起こった事件

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「エフェリア嬢、何をっ……!」
「エフェリアお姉様……」

 レフティス様と私は、ほぼ同時に声をあげていた。
 オルディアお兄様のマネリア嬢の方へと歩み寄るという行為は、危険極まりないものだったからだ。
 しかし、私達の制止の声なんてものは届かなかった。オルディアお兄様は、マネリア嬢の目の前に立っている。既に止めることが不可能な状況だ。

「……あなたがエフェリア嬢ね?」
「あなたは……?」
「私はマネリア。レフティス様と真に結ばれるべき者よ」
「なっ……」

 マネリア嬢は、自己紹介と同時にオルディアお兄様に向かって何かをかけた。
 瓶を素早く開けて、液体を放ったようである。それは、ディトナス様と同じような行動だ。しかし彼女がかけたのは、ジュースなどではないだろう。あれは明らかに、何かしらの薬だ。

「エフェリアお姉様!」
「きっ……きゃああああ!」

 次の瞬間、オルディアお兄様は悲痛な叫びをあげた。
 顔の右側を押さえながら、苦しんでいるようだ。
 ただ、エフェリアお姉様の演技は忘れていない。それはある程度、余裕のようなものがあるということなのだろうか。私としては、判断に少し困る。

 いや、どちらにしてもオルディアお兄様は治療が必要な状態だ。
 しかし、一体どうすれば良いのだろうか。そもそも何をかけられたのかもわからないし、対処方法がよくわからない。

「遅かったか!」

 そんなことを考えていると、ロヴェリオ殿下が近くにやって来た。
 それと同時に、騎士らしき人達がマネリア嬢を拘束する。どうやら約束通り、騎士を引き連れて来てくれたようだ。

「ロヴェリオ殿下、どうしたら……」
「とにかく医務室に連れて行かないと」
「……エフェリア嬢は、私が運びましょう」
「レフティス様……」

 私が色々と起こっている現状に動揺していると、レフティス様がオルディアお兄様の体を持ち上げた。
 私と違って、彼はとても冷静である。どうやらレフティス様は、有事の際にも頼りになる人であるようだ。
 そういえば、彼は一体どこまで事態を把握しているのだろうか。それは気になることではあるが、今は聞くべき時ではない。

「クラリア嬢、あなたはオルディア公爵令息に声をかけてくださいますか? 彼は控え室にいます」
「控え室、ですか?」
「ええ、彼は事態を何も把握していないでしょうが……」
「わ、わかりました」

 レフティス様の言葉に、私はとりあえず頷いた。
 彼は恐らく、エフェリアお姉様のことを言っているのだろう。もしもお姉様が本当に何も知らないというなら、それは大変なことだ。早く事態を知らせなければならない。
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