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73.わからないからこそ

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「レフティス様の考えは、よくわかりました。あなたにそう思っていただけて、とても嬉しく思います。試すようなことをして、本当に申し訳ありませんでした」

 エフェリアお姉様は、レフティス様に対して頭を下げていた。
 オルディアお兄様も合わせて頭を下げていたため、私もそれに倣うことにした。これはヴェルード公爵家として、謝罪しなければならないことであるだろう。

「別にそのことを問題にしようとは思っていませんよ。むしろ、お二方を見抜けなかったなら、婚約する権利なんてものはないでしょうからね……ですから、このことは水に流すとしましょう。とはいえ、それで婚約の話を進めていただけるというなら、嬉しいですが」
「両親は今回の婚約を良いものだと考えています。私個人としても、レフティス様は良い人であるとは思っていますから、婚約したいと今は思っています」
「今は思っている……それは、今後変わるかもしれないということですか?」

 レフティス様は、その表情を少しだけ強張らせた。
 それはエフェリアお姉様の言葉にあった含みが、気になったからだろう。
 ちなみに私は、なんとも思っていなかった。ただ言われてみれば、確かにエフェリアお姉様の言葉は変かもしれない。わざわざ今とつける意味なんて、ない訳だし。

「レフティス様に、一つお聞きしておきたいことがあるのです。それはここにいるクラリアのことです」
「え?」

 エフェリアお姉様の言葉に、私は思わず声を出してしまった。
 自分の名前が出て来るなんて、思ってもいなかったため、つい反応してしまったのだ。
 レフティス様の方は、目を丸めている。彼にとっても、これは予想外のものだったようだ。

「クラリアのことを、レフティス様はどう思われているのですか?」
「クラリア嬢のことですか? その質問の意図が、よくわかりませんね……可愛らしいお嬢さん、とでも言えば良いのでしょうか? 素敵な子だとは思いますよ」
「……なるほど」
「……あの、エフェリア嬢?」

 レフティス様の言葉に、エフェリアお姉様は嬉しそうに頷いていた。
 しかし、言った彼の方は困惑している。質問の意図が未だに理解できていないのだろう。

 ただ理解できていないということが、これに関しては重要なのかもしれない。それでエフェリアお姉様は悟ったのだ。レフティス様には、ディトナス様のような私に対する過激な思想などはないということを。

「レフティス様、無礼なことをしてしまった私が、こんなことを言うのはなんですけれど、どうかこれからよろしくお願いします」
「え、ええ……よろしくお願いします」

 エフェリアお姉様とレフティス様は、しっかりと挨拶を交わしていた。
 これから二人は、正式に婚約することになるだろう。二人を見ながら、私はそう思うのだった。
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