妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?

木山楽斗

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62.侯爵の決断(アドルグside)

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「ディトナス侯爵令息」
「な、なんだ?」
「今回の件について、ヴェルード公爵家としては金銭を求めるつもりです。しかし、それで全てをなかったことにできる訳ではない」

 アドルグは、ディトナスを睨みつけた。
 すると彼は、父親の方に視線を向ける。それはまるで、助けを求めているかのようだ。
 散々威張っていた訳ではあるが、それでもまだ彼は子供であった。アドルグとの年の差は七つ。年上からの容赦ない圧には、耐え切れなかったようだ。

 しかしアドルグは、その気迫を緩めるつもりなどはなかった。
 そこで優しさを見せることは、どの観点から考えても不要であると、アドルグは思っているのだ。

「こちらとしては、あなたからの謝罪の言葉も求めておきたい所です」
「ぼ、僕は……」
「あなたは間違いを犯した。それを自覚するべきだ。そしてやり直せば良い。今ならいくらでも間に合うでしょう。あなたは自分を律することと、謝罪することを今ここで学ぶべきです」

 ディトナスは今、分岐点に立っている。アドルグは、そのように考えていた。
 まだ子供ではあるものの、彼くらいの年齢になると、社交界で勝手は許されなくなる。少なくとも、子供だから仕方ないなどとみなされるような年齢ではない。
 今ここで、彼は改めなければならないのである。そうしておかなければ、また間違いを犯すことになるだろう。アドルグの根底にはそのような考えがあった。

「ふざけるな……僕の何が悪いというんだ!」

 しかし、アドルグの言葉はディトナスには届いていなかった。
 彼は、己の感情の赴くままに言葉を発している。それは貴族としては、良いことではない。腹の中で何を考えているかは問題ではなく、それは表面上に出すべきものではないのである。
 アドルグは、ディトナスが貴族として不適切であると感じていた。彼は自分を律する術を知らず、反省することなどもできない人間なのだ。

「……ディトナス、もう良い」
「え?」

 アドルグがそう思っていると、ドルイトン侯爵の低い声が響いた。
 そちらの方に視線を向けると、何かを決意したかのように険しい顔したドルイトン侯爵がいる。

「ち、父上……?」
「私は心のどこかで、お前のことを恐れていた。ダルークのことで、私は負い目を感じていた。表面上は厳しく接していたつもりだったが、その中にある恐怖をお前は見抜いていたのだろうな……今のお前を後継者として据えることはできない。今回の件でそれがよくわかった」
「なっ……!」

 ドルイトン侯爵の言葉に、ディトナスは固まっていた。
 自身を次期当主として認めないということがどういうことか、彼はそれをすぐに理解したらしい。ディトナスはその目を丸めて、父親を見ている。

「お前を騎士団に入れるとしよう。そこで自分を磨くのだ。恐らく私の傍にいるよりも、多くのことが学べることだろう」
「父上、何を言っているのですか……」
「それでもお前が変わらないというなら……私はダルークにドルイトン侯爵家を継がせる」
「ふざけるなっ! どうしてあんな奴に……! あんな奴にっ……」

 ディトナスは、ドルイトン侯爵の言葉に反論しようとしていた。
 しかし、彼は言葉を詰まらせている。それによってアドルグは理解した。
 ディトナスという人間は、心のどこかで思っていたのだ。自分よりも、妾の子である兄の方が、次期侯爵に相応しいのだと。

 彼はそれを認めたくなかった。だからこそ反発し続けてきたのだ。
 それがきっと、ディトナスという人間が自分を保つ上で必要なことだったのだろう。
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