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54.激しい憎悪
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「ふざけるなよ! 勝手なことばかり言いやがって……」
ディトナス様は、オルディアお兄様にも牙を向いた。
彼は怒っている。それは今までも、わかっていたことだ。
しかし、やはりその怒りというものは私に向けられていないような気がする。彼はもっと、身近な事柄に怒っているように思えるのだ。
「いいか。お前の妹の存在というものは、あってはならないものなんだよ。貴族が浮気して子供を残すなんて、恥さらしもいい所だ」
「……それは確かに、そうかもしれない」
ディトナス様の言葉に、オルディアお兄様はゆっくりと頷いた。
興奮している相手に対しても、どこまで冷静な対応だ。そんなお兄様を、私はすごいと思う。
その言葉に頷いたことについても、私は納得している。浮気が良くないことだということは、私もわかっているつもりだ。貴族であるならば、猶更であるだろう。
「なんだ……わかっているんじゃないか。そうだ。あいつは、生まれてはならない命だったんだ。あいつが生まれたことが間違いなんだよ!」
「それは違う!」
しかしディトナス様の次の言葉には、オルディアお兄様は強く否定した。
そんな風にお兄様が感情を露わにするのは、初めて見た。エフェリアお姉様にとっても意外だったのだろうか。私を抱きしめるその体が、少し強張っているのがわかった。
「生まれてはならない命なんてものはない。確かに、父上や母上は間違いを犯した。だけれど、クラリアが生まれたことが間違いだったなんてことはない」
「なんだと?」
「クラリアには罪はない。妹を否定する者を僕は許さない」
「妹……」
そこでディトナス様は、私の方に視線を向けてきた。
その視線に、私の体は少し強張る。その鋭い視線は、やはり怖いものだった。
ただ、同時に私が今まで抱いていた疑念は確信に変わった。彼は今、私に意識を向けてきたのだ。今までは別の人のことを言っていたのだろう。
「どいつもこいつも……」
「ディトナス侯爵令息、どこへ行く?」
「ヴェルード公爵家との婚約なんて、こちらから願い下げだ。薄汚い平民の血を引く娘と婚約させられるなんて、僕はごめんだからな」
ディトナス様は、私達に背を向けた。
彼は、ダルークさんの方を見ている。それで改めて理解できた。ディトナス様が忌み嫌っているのは、彼であるということが。
恐らく、ダルークさんはただの庭師ではないのだろう。予想が正しければ、私と同じような立場かもしれない。
しかし何はともあれ、この場は一旦収まったということになるだろう。
ディトナス様への抗議などは、ヴェルード公爵家の屋敷に戻ってから考えるべきことだ。それは私達だけで判断して良いことではない。
ディトナス様は、オルディアお兄様にも牙を向いた。
彼は怒っている。それは今までも、わかっていたことだ。
しかし、やはりその怒りというものは私に向けられていないような気がする。彼はもっと、身近な事柄に怒っているように思えるのだ。
「いいか。お前の妹の存在というものは、あってはならないものなんだよ。貴族が浮気して子供を残すなんて、恥さらしもいい所だ」
「……それは確かに、そうかもしれない」
ディトナス様の言葉に、オルディアお兄様はゆっくりと頷いた。
興奮している相手に対しても、どこまで冷静な対応だ。そんなお兄様を、私はすごいと思う。
その言葉に頷いたことについても、私は納得している。浮気が良くないことだということは、私もわかっているつもりだ。貴族であるならば、猶更であるだろう。
「なんだ……わかっているんじゃないか。そうだ。あいつは、生まれてはならない命だったんだ。あいつが生まれたことが間違いなんだよ!」
「それは違う!」
しかしディトナス様の次の言葉には、オルディアお兄様は強く否定した。
そんな風にお兄様が感情を露わにするのは、初めて見た。エフェリアお姉様にとっても意外だったのだろうか。私を抱きしめるその体が、少し強張っているのがわかった。
「生まれてはならない命なんてものはない。確かに、父上や母上は間違いを犯した。だけれど、クラリアが生まれたことが間違いだったなんてことはない」
「なんだと?」
「クラリアには罪はない。妹を否定する者を僕は許さない」
「妹……」
そこでディトナス様は、私の方に視線を向けてきた。
その視線に、私の体は少し強張る。その鋭い視線は、やはり怖いものだった。
ただ、同時に私が今まで抱いていた疑念は確信に変わった。彼は今、私に意識を向けてきたのだ。今までは別の人のことを言っていたのだろう。
「どいつもこいつも……」
「ディトナス侯爵令息、どこへ行く?」
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恐らく、ダルークさんはただの庭師ではないのだろう。予想が正しければ、私と同じような立場かもしれない。
しかし何はともあれ、この場は一旦収まったということになるだろう。
ディトナス様への抗議などは、ヴェルード公爵家の屋敷に戻ってから考えるべきことだ。それは私達だけで判断して良いことではない。
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