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52.言葉の矛先は

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「僕は別に何もしていない。彼女と少し話していただけだ。そこに、こいつが割り込んできて……」
「ほう?」

 ディトナス様は、ロヴェリオ殿下に対して必死の形相で弁明した。
 しかし、それは届いているようには思えない。ロヴェリオ殿下は、目を細めてディトナス様のことを睨みつけている。

「それならあなたの話を聞かせてもらおうか?」
「……ロヴェリオ殿下、ディトナス様がクラリア様に無礼を働いたことは事実です」
「お、お前……」

 質問を投げかけられたダルークさんは、正直に答えていた。 
 それに対して、ディトナス様はその表情を歪めている。当然のことながら、彼は真実を話されたら困る立場だ。

 しかしダルークさんが、そこまで正直に話すとは驚きである。彼は、このドルイトン侯爵家の使用人だ。家が不利になるようなことを証言するとは思わなかった。
 もっとも、どの道私が真実を話したら同じことになる。先程既に口論もした訳だし、ダルークさんには最早失うものなどないということだろうか。

「ディトナス様は、クラリア様を罵倒して、飲み物を投げかけました」
「……なるほど、それをあなたは庇ったということか?」
「……一応、そういうことにはなりますが」
「そうか。それなら悪かったな。あなたはどうやら、誠実な人であるようだ」

 ロヴェリオ殿下は、ダルークさんに対する態度を緩めていた。
 それは彼が私のことを助けてくれた人だと、理解したからだろう。
 私も、ダルークさんには感謝しなければならない。彼がいなければ、今頃私はびしょぬれだったことだろう。

「……ディトナス侯爵令息、言っておくがこれは問題だぞ?」
「……問題だと?」
「自分が何をしたか、わかっていないのか? 公爵家の令嬢のことを馬鹿にして、それ所か危害を加えようとしたなんて、大問題だ」

 ロヴェリオ殿下の言葉に、ディトナス様の表情が歪んだ。
 彼のその表情からは、怒りの感情が読み取れる。どうやら彼にとって、ロヴェリオ殿下の今の言葉はとても気に食わないものだったようだ。

「……そんな薄汚い奴を馬鹿にして何が悪いと言うんだ?」
「何?」
「平民などという薄汚い者達の血を引くそいつは、貴族なんかじゃない! 高貴なる世界を土足で踏みにじる悪逆どもだ。そんな奴らを自由にさせるなんて、これは貴族としての怠慢ともいえることだ。許されることではない!」

 ディトナス様は、その怒りをはっきりと口にした。
 ただ彼は、私の方を見ていないような気がする。先程からディトナス様がその視線を向けているのは、ダルークさんの方なのだ。
 私はなんとなく、二人の関係性というものがわかってきた。ただそれは、私がずっと成り行きを見守っていたからだ。

 つまり、この場にいなかった人達にとっては、そんな事情は理解できるものではない。
 故に、今の言葉が全て私に向けたものだと判断するだろう。
 だから、この場に現れたエフェリアお姉様とオルディアお兄様はひどく怒っているのだ。上のお兄様方程ではないにしても、二人も私を傷つける人のことは許さないだろう。
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