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36.聞こえてきた声
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「所で、ロヴェリオ殿下はどうしてこちらにいらっしゃったのですか?」
「単に遊びに来ただけですよ。俺も色々と苦労しましたからね」
ウェリダンお兄様の言葉に、ロヴェリオ殿下は苦笑いを浮かべていた。
彼には今回、辛い立場を押し付けてしまったといえる。後でたくさん労わなければならない。できれば何か、形に残るような感謝を示したい所だ。
「あら?」
「イフェネア? どうかしたのか?」
「門の方が騒がしいような気がして……もしかして、お父様とお母様ではありませんか?」
「む? 丁度タイミングが重なったか」
そこで、イフェネアお姉様とアドルグお兄様がそのような会話を交わした。
するとエフェリアお姉様とオルディアお兄様が私を挟むようにして、前に立つ。それはつまり、私のことを庇ってくれているということだろうか。
私はまだ、ヴェルード公爵夫妻とそれ程話していない。実の父親である公爵はともかく、公爵夫人とはまだいまいち話す勇気が湧いてこないのである。
公爵夫人が私に友好的かは、まだわからない。それは多分、お兄様方も知らないことなのだろう。皆少しだけ、表情が強張っているような気がする。
「……む、勢揃いで出迎えか?」
「……いいえ、多分これはアドルグの出迎えではないかしら?」
「そうか……となると、色々とまずいかもしれないな」
「まあ、そうだけれど、覚悟を決めるしかないでしょう。今更過去は変えられないのだもの」
「それもそうか……」
いつの間にか、お兄様方は私のことを囲んでいた。
公爵夫妻のことを、まるで警戒しているかのようだ。辺りの空気が張り詰めている。
ただそれと比べて、聞こえてきた夫妻の声色は軽い。私の存在に気付いていないのだろうか。それとも、気付いていてもそういう口調になるくらいには、私に友好的であるということだろうか。
「……あなたは大丈夫かしら?」
「……もちろん、緊張はしています。とはいえ、クラリアに会える喜びの方が大きいでしょうか?」
「君には迷惑をかけてしまったな。今回の件……いや、そもそも過去のあの日から――」
「旦那様、それは言わない約束です。それに私は、自らの人生というものに対して、後悔などしていないのです。私はただ……」
周りにいるお兄様方は、聞こえてくる声に少し困惑しているようだった。
公爵夫妻が誰かと話しているが、その誰かがわからないのだろう。
しかし私には、すぐにわかった。その声を聞き間違えるはずはない。私はお兄様方の隙間を駆け抜けて、屋敷の外に出て行った。
「……お母さん!」
「……クラリア」
公爵夫人の隣にいるのは、私のお母さんだった。
私はお母さんの元へと一気に駆け寄り、そして飛び込んだ。そんな私を、お母さんはしっかりと抱き止めてくれた。
「単に遊びに来ただけですよ。俺も色々と苦労しましたからね」
ウェリダンお兄様の言葉に、ロヴェリオ殿下は苦笑いを浮かべていた。
彼には今回、辛い立場を押し付けてしまったといえる。後でたくさん労わなければならない。できれば何か、形に残るような感謝を示したい所だ。
「あら?」
「イフェネア? どうかしたのか?」
「門の方が騒がしいような気がして……もしかして、お父様とお母様ではありませんか?」
「む? 丁度タイミングが重なったか」
そこで、イフェネアお姉様とアドルグお兄様がそのような会話を交わした。
するとエフェリアお姉様とオルディアお兄様が私を挟むようにして、前に立つ。それはつまり、私のことを庇ってくれているということだろうか。
私はまだ、ヴェルード公爵夫妻とそれ程話していない。実の父親である公爵はともかく、公爵夫人とはまだいまいち話す勇気が湧いてこないのである。
公爵夫人が私に友好的かは、まだわからない。それは多分、お兄様方も知らないことなのだろう。皆少しだけ、表情が強張っているような気がする。
「……む、勢揃いで出迎えか?」
「……いいえ、多分これはアドルグの出迎えではないかしら?」
「そうか……となると、色々とまずいかもしれないな」
「まあ、そうだけれど、覚悟を決めるしかないでしょう。今更過去は変えられないのだもの」
「それもそうか……」
いつの間にか、お兄様方は私のことを囲んでいた。
公爵夫妻のことを、まるで警戒しているかのようだ。辺りの空気が張り詰めている。
ただそれと比べて、聞こえてきた夫妻の声色は軽い。私の存在に気付いていないのだろうか。それとも、気付いていてもそういう口調になるくらいには、私に友好的であるということだろうか。
「……あなたは大丈夫かしら?」
「……もちろん、緊張はしています。とはいえ、クラリアに会える喜びの方が大きいでしょうか?」
「君には迷惑をかけてしまったな。今回の件……いや、そもそも過去のあの日から――」
「旦那様、それは言わない約束です。それに私は、自らの人生というものに対して、後悔などしていないのです。私はただ……」
周りにいるお兄様方は、聞こえてくる声に少し困惑しているようだった。
公爵夫妻が誰かと話しているが、その誰かがわからないのだろう。
しかし私には、すぐにわかった。その声を聞き間違えるはずはない。私はお兄様方の隙間を駆け抜けて、屋敷の外に出て行った。
「……お母さん!」
「……クラリア」
公爵夫人の隣にいるのは、私のお母さんだった。
私はお母さんの元へと一気に駆け寄り、そして飛び込んだ。そんな私を、お母さんはしっかりと抱き止めてくれた。
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