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26.部屋を訪ねて

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「おはようございます、ウェリダンお兄様」
「おはようございます、クラリア。今日はなんというか……燃えていますね?」
「そ、そう見えますか?」

 イフェネアお姉様から話を聞いた私は、後日ウェリダンお兄様の部屋を訪ねていた。
 何故そうしたのかは、自分でもわかっていない。ただなんというか、そうするべきだと思ったのである。
 ウェリダンお兄様は、いつも通りの笑顔で私を迎えてくれた。その笑顔は、今までは少し違って見える――ような気がする。

「何かやる気を出すようなことがあったということでしょうか? 二人の令嬢のことですか?」
「あ、いえ、それは別に……」
「おや違ったのですか? それではどうしてわざわざ僕を訪ねて?」
「すみません。用事もなく訪ねてしまって」
「いえ、構いませんよ……そうですね。別に兄を訪ねるのに用事なんていりませんか」

 ウェリダンお兄様は、いつもの笑顔を浮かべている。ただ、今はなんというか、嬉しそうにしているような気がしないでもない。
 段々と私は、その感情を掴めるようになってきている。多分、ヴェルード公爵家の人々は皆そうなのだろう。だからいつしか、この笑顔を問題視しないようになったのだ。
 これも個性の一つだということもできるかもしれない。ただ、本当にそれで良いのだろうか。私はいつか困る日が来ると、考えてしまう。

「ウェリダンお兄様は、立派な――お優しい方ですよね」
「おやおや、急にどうしたのですか?」
「だけど、その笑顔からはそれが伝わってきません。私は最初に会った時、ウェリダンお兄様のことを怖い人だと思っていました」
「……それは」

 私の口からは、自然と言葉が出てきていた。
 それは言うべきことだったのかは、よくわからない。でも口にしてしまったのだから、もう仕方ないだろう。一度出した言葉を、引っ込められるという訳でもない。
 つまり、このまま突き進むしかないということだ。私は気合を入れて、ウェリダンお兄様の目をしっかりと見る。

「もったいないですよ、ウェリダンお兄様」
「もったいない、ですか?」
「ええ、だって、初めて笑顔を見て、この人とは関わりたくないなって思ったら、それで終わってしまうじゃないですか。ウェリダンお兄様の良さは伝わりません」
「僕の良さ……だけれど僕は、別に他人にわかってもらえなくたって……」
「ウェリダンお兄様……?」

 ウェリダンお兄様は、ゆっくりと窓際まで歩いていった。
 その後ろ姿は、なんとも物悲しいものだ。それはもしかしたら、イフェネアお姉様が言っていたことが関係しているのかもしれない。友達との間にあったことが、ウェリダンお兄様の心に陰を落としているということだろうか。
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