25 / 100
25.不気味な笑みの理由
しおりを挟む
私の毎日というものは、イフェネアお姉様の顔を見て始まり、その顔を見て終わる。
一緒の部屋で過ごすということは、そういうことだ。大きな広いベッドの中で、私はお姉様と身を寄せ合っている。
恥ずかしい話ではあるけれど、私はいつもお母さんとそうやって一緒に眠っていた。
もしかしたらこの部屋よりも狭いかもしれない家の中で、寒い日は特にお互いを温め合っていたのである。
今となっては、そんな日々が懐かしく思えてくる。その日々が戻って来ることは、きっともうないのだろうけれど。
「クラリア、何かあったの?」
「え?」
「浮かない顔をしているわ。私で良ければ、力になるけれど」
そんな風に感傷に浸っていると、イフェネアお姉様が話しかけてきた。
それに私は、どう答えていいかわからない。確かに心の中に不安というものは存在しているが、それは素直に話せる程に簡単なものではなかったのだ。
「……ウェリダンお兄様のことで少し気になることがあるんです」
「あら、あの子がどうかしたのかしら?」
「その、いつも笑っているので、どうしてなのかと思って……」
私の口から出てきたのは、不安ではなくてウェリダンお兄様のことだった。
実の所、それも気になっていたことである。あの笑みというものは、一体どうして生まれたものなのだろうか。
楽しい時も寂しい時も苦しい時も、きっとウェリダンお兄様は笑っている。あの不気味な笑みというものは、生まれつきだったのだろうか。
「昔はそうでもなかったのだけれどね」
「そうなんですか?」
「ええ、というよりも、あの子は感情を表に出すのが苦手だったのよ。いつも無表情で……無機質だったの。それを友達に指摘された時からかしら。あんな風に笑うようになったのは」
「なるほど、それであんな不気味な笑顔を……ああいえ、すみません」
「いいえ、大丈夫よ。私も少なからず、そう思っている所があるから」
私の失言に、イフェネアお姉様は苦笑いを浮かべていた。
やはり、あの笑顔はあまり良い笑顔という訳でもないのかもしれない。無理をして笑っているということなのだろうか。だとしたら、少々悲しいものである。
「でもあの笑顔は、親しい人の前でしか見せないものなのよ? 舞踏会とかそういった場では、なんとか表情は作れているの。でもまあ、それは心からの笑顔ではないけれど……」
「心からの笑顔、ですか……」
「ええ、でもウェリダンは感情がないという訳ではないから、きっとその出力の仕方がわからないのでしょうね……今は変な癖がついているというか」
「なるほど……」
ウェリダンお兄様のことが少しだけわかって、私は色々と考えることになった。
感情を表に出すことができないというのは、私には経験がないことだ。楽しい時は笑っていたし、悲しい時は泣いていた。それはもしかしたら、幸せなことだったのかもしれない。
一緒の部屋で過ごすということは、そういうことだ。大きな広いベッドの中で、私はお姉様と身を寄せ合っている。
恥ずかしい話ではあるけれど、私はいつもお母さんとそうやって一緒に眠っていた。
もしかしたらこの部屋よりも狭いかもしれない家の中で、寒い日は特にお互いを温め合っていたのである。
今となっては、そんな日々が懐かしく思えてくる。その日々が戻って来ることは、きっともうないのだろうけれど。
「クラリア、何かあったの?」
「え?」
「浮かない顔をしているわ。私で良ければ、力になるけれど」
そんな風に感傷に浸っていると、イフェネアお姉様が話しかけてきた。
それに私は、どう答えていいかわからない。確かに心の中に不安というものは存在しているが、それは素直に話せる程に簡単なものではなかったのだ。
「……ウェリダンお兄様のことで少し気になることがあるんです」
「あら、あの子がどうかしたのかしら?」
「その、いつも笑っているので、どうしてなのかと思って……」
私の口から出てきたのは、不安ではなくてウェリダンお兄様のことだった。
実の所、それも気になっていたことである。あの笑みというものは、一体どうして生まれたものなのだろうか。
楽しい時も寂しい時も苦しい時も、きっとウェリダンお兄様は笑っている。あの不気味な笑みというものは、生まれつきだったのだろうか。
「昔はそうでもなかったのだけれどね」
「そうなんですか?」
「ええ、というよりも、あの子は感情を表に出すのが苦手だったのよ。いつも無表情で……無機質だったの。それを友達に指摘された時からかしら。あんな風に笑うようになったのは」
「なるほど、それであんな不気味な笑顔を……ああいえ、すみません」
「いいえ、大丈夫よ。私も少なからず、そう思っている所があるから」
私の失言に、イフェネアお姉様は苦笑いを浮かべていた。
やはり、あの笑顔はあまり良い笑顔という訳でもないのかもしれない。無理をして笑っているということなのだろうか。だとしたら、少々悲しいものである。
「でもあの笑顔は、親しい人の前でしか見せないものなのよ? 舞踏会とかそういった場では、なんとか表情は作れているの。でもまあ、それは心からの笑顔ではないけれど……」
「心からの笑顔、ですか……」
「ええ、でもウェリダンは感情がないという訳ではないから、きっとその出力の仕方がわからないのでしょうね……今は変な癖がついているというか」
「なるほど……」
ウェリダンお兄様のことが少しだけわかって、私は色々と考えることになった。
感情を表に出すことができないというのは、私には経験がないことだ。楽しい時は笑っていたし、悲しい時は泣いていた。それはもしかしたら、幸せなことだったのかもしれない。
1,305
お気に入りに追加
3,124
あなたにおすすめの小説
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
もう我慢しなくて良いですか? 【連載中】
青緑
恋愛
女神に今代の聖女として選定されたメリシャは二体の神獣を授かる。
親代わりの枢機卿と王都を散策中、王子によって婚約者に選ばれてしまう。法衣貴族の娘として学園に通う中、王子と会う事も関わる事もなく、表向き平穏に暮らしていた。
ある辺境で起きた魔物被害を食い止めたメリシャは人々に聖女として認められていく。しかしある日、多くの王侯貴族の前で王子から婚約破棄を言い渡されてしまう。長い間、我儘な王子に我慢してきた聖女は何を告げるのか。
———————————
本作品は七日から十日おきでの投稿を予定しております。
更新予定時刻は投稿日の17時を固定とさせていただきます。
誤字・脱字をお知らせしてくださると、幸いです。
読み難い箇所のお知らせは、何話の修正か記載をお願い致しますm(_ _)m
※40話にて、近況報告あり。
※52話より、次回話の更新をお知らせします。
妹に婚約者を奪われたので、田舎暮らしを始めます
tartan321
恋愛
最後の結末は??????
本編は完結いたしました。お読み頂きましてありがとうございます。一度完結といたします。これからは、後日談を書いていきます。
侯爵様に婚約破棄されたのですが、どうやら私と王太子が幼馴染だったことは知らなかったようですね?
ルイス
恋愛
オルカスト王国の伯爵令嬢であるレオーネは、侯爵閣下であるビクティムに婚約破棄を言い渡された。
信頼していたビクティムに裏切られたレオーネは悲しみに暮れる……。
しかも、破棄理由が他国の王女との婚約だから猶更だ。
だが、ビクティムは知らなかった……レオーネは自国の第一王子殿下と幼馴染の関係にあることを。
レオーネの幼馴染であるフューリ王太子殿下は、彼女の婚約破棄を知り怒りに打ち震えた。
「さて……レオーネを悲しませた罪、どのように償ってもらおうか」
ビクティム侯爵閣下はとてつもない虎の尾を踏んでしまっていたのだった……。
家から追い出された後、私は皇帝陛下の隠し子だったということが判明したらしいです。
新野乃花(大舟)
恋愛
13歳の少女レベッカは物心ついた時から、自分の父だと名乗るリーゲルから虐げられていた。その最中、リーゲルはセレスティンという女性と結ばれることとなり、その時のセレスティンの連れ子がマイアであった。それ以降、レベッカは父リーゲル、母セレスティン、義妹マイアの3人からそれまで以上に虐げられる生活を送らなければならなくなった…。
そんなある日の事、些細なきっかけから機嫌を損ねたリーゲルはレベッカに対し、今すぐ家から出ていくよう言い放った。レベッカはその言葉に従い、弱弱しい体を引きずって家を出ていくほかなかった…。
しかしその後、リーゲルたちのもとに信じられない知らせがもたらされることとなる。これまで自分たちが虐げていたレベッカは、時の皇帝であるグローリアの隠し子だったのだと…。その知らせを聞いて顔を青くする3人だったが、もうすべてが手遅れなのだった…。
※カクヨムにも投稿しています!
【完結】妹に全部奪われたので、公爵令息は私がもらってもいいですよね。
曽根原ツタ
恋愛
ルサレテには完璧な妹ペトロニラがいた。彼女は勉強ができて刺繍も上手。美しくて、優しい、皆からの人気者だった。
ある日、ルサレテが公爵令息と話しただけで彼女の嫉妬を買い、階段から突き落とされる。咄嗟にペトロニラの腕を掴んだため、ふたり一緒に転落した。
その後ペトロニラは、階段から突き落とそうとしたのはルサレテだと嘘をつき、婚約者と家族を奪い、意地悪な姉に仕立てた。
ルサレテは、妹に全てを奪われたが、妹が慕う公爵令息を味方にすることを決意して……?
幼馴染が夫を奪った後に時間が戻ったので、婚約を破棄します
天宮有
恋愛
バハムス王子の婚約者になった私ルーミエは、様々な問題を魔法で解決していた。
結婚式で起きた問題を解決した際に、私は全ての魔力を失ってしまう。
中断していた結婚式が再開すると「魔力のない者とは関わりたくない」とバハムスが言い出す。
そしてバハムスは、幼馴染のメリタを妻にしていた。
これはメリタの計画で、私からバハムスを奪うことに成功する。
私は城から追い出されると、今まで力になってくれた魔法使いのジトアがやって来る。
ずっと好きだったと告白されて、私のために時間を戻す魔法を編み出したようだ。
ジトアの魔法により時間を戻すことに成功して、私がバハムスの妻になってない時だった。
幼馴染と婚約者の本心を知ったから、私は婚約を破棄します。
婚約破棄を兄上に報告申し上げます~ここまでお怒りになった兄を見たのは初めてでした~
ルイス
恋愛
カスタム王国の伯爵令嬢ことアリシアは、慕っていた侯爵令息のランドールに婚約破棄を言い渡された
「理由はどういったことなのでしょうか?」
「なに、他に好きな女性ができただけだ。お前は少し固過ぎたようだ、私の隣にはふさわしくない」
悲しみに暮れたアリシアは、兄に婚約が破棄されたことを告げる
それを聞いたアリシアの腹違いの兄であり、現国王の息子トランス王子殿下は怒りを露わにした。
腹違いお兄様の復讐……アリシアはそこにイケない感情が芽生えつつあったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる