21 / 100
21.わからないこと(アドルグside)
しおりを挟む
「実の所、アドルグからは前々から相談を受けていたのだ」
ヴェルード公爵夫妻は、国王の前に立っていた。
それを見ながら、アドルグは考える。自分の両親が今、何を思っているのかを。
クラリアという隠し子の存在、それはヴェルード公爵家にとって少なからずスキャンダルになることであった。
それに関してクラリアに罪がある訳ではないと、アドルグは認識している。問題なのはヴェルード公爵イルリオの素行だ。妻がいる身でありながら、他の女性と関係を持ったその不貞行為に対して、アドルグは少なからず嫌悪感を覚えている。
ただわからないことは、父と母の仲が良好であったにも関わらず、そのようなことが起こったという事実であった。
単なる出来心ということもあるが、両親に対して尊敬の念を抱いていたアドルグにとって、状況は不可解なものである。
今回の件に関して、母親であるヴェルード公爵夫人レセティアのスタンスがわからないというのもアドルグは気になっていた。
ことがことであるだけに、もう少し意見が聞けて然るべきであるというのに、彼女は沈黙を貫くばかりなのである。
「クラリアの件に関しては、私も把握していないことが多い。この際だ。洗いざらい吐き出してもらおうか」
「兄上、ことはそう難しいことではありません。私が昔手を出したメイドとの間に子供がいたことをつい最近判明したというだけのことです」
「イルリオ、お前はレセティアと愛し合う関係にあったと、私は認識している。そんなお前が浮気をするとは思えなかった。何か事情があるのではないか?」
「お恥ずかしい話ですが、事情などというものはありはしません。単に私が不貞を働いたというだけのことです」
「私やアドルグにさえ、話せないようなことなのか」
伯父の口振りに、アドルグは父が何かを隠しているということを理解した。
しかしながら、考えてもわからない。事情があったにしても、メイドとの間に子供を作った理由がアドルグには思いつかなかった。
故にアドルグは、クラリアが父の子ですらないとさえ考えた。事情があって匿っているという可能性さえも、彼は考慮したのだ。
「……イルリオ、もう隠すのはやめにしましょう」
「レセティア、しかし……」
「このまま隠していても、事態をややこしくするだけです。恥を忍んで話すしかありません……お義兄様、できればアドルグには聞かせたくないのですが」
「アドルグはヴェルード公爵家を何れ背負うことになる。聞かせぬ訳にもいかぬだろう」
「……そうですか」
母親からの視線に、アドルグは居たたまれなくなっていた。
とはいえ、彼もその場を離れるつもりはない。ヴェルード公爵家の次期当主として、ここにいることが自分の使命であると、彼は強く認識しているからだ。
ヴェルード公爵夫妻は、国王の前に立っていた。
それを見ながら、アドルグは考える。自分の両親が今、何を思っているのかを。
クラリアという隠し子の存在、それはヴェルード公爵家にとって少なからずスキャンダルになることであった。
それに関してクラリアに罪がある訳ではないと、アドルグは認識している。問題なのはヴェルード公爵イルリオの素行だ。妻がいる身でありながら、他の女性と関係を持ったその不貞行為に対して、アドルグは少なからず嫌悪感を覚えている。
ただわからないことは、父と母の仲が良好であったにも関わらず、そのようなことが起こったという事実であった。
単なる出来心ということもあるが、両親に対して尊敬の念を抱いていたアドルグにとって、状況は不可解なものである。
今回の件に関して、母親であるヴェルード公爵夫人レセティアのスタンスがわからないというのもアドルグは気になっていた。
ことがことであるだけに、もう少し意見が聞けて然るべきであるというのに、彼女は沈黙を貫くばかりなのである。
「クラリアの件に関しては、私も把握していないことが多い。この際だ。洗いざらい吐き出してもらおうか」
「兄上、ことはそう難しいことではありません。私が昔手を出したメイドとの間に子供がいたことをつい最近判明したというだけのことです」
「イルリオ、お前はレセティアと愛し合う関係にあったと、私は認識している。そんなお前が浮気をするとは思えなかった。何か事情があるのではないか?」
「お恥ずかしい話ですが、事情などというものはありはしません。単に私が不貞を働いたというだけのことです」
「私やアドルグにさえ、話せないようなことなのか」
伯父の口振りに、アドルグは父が何かを隠しているということを理解した。
しかしながら、考えてもわからない。事情があったにしても、メイドとの間に子供を作った理由がアドルグには思いつかなかった。
故にアドルグは、クラリアが父の子ですらないとさえ考えた。事情があって匿っているという可能性さえも、彼は考慮したのだ。
「……イルリオ、もう隠すのはやめにしましょう」
「レセティア、しかし……」
「このまま隠していても、事態をややこしくするだけです。恥を忍んで話すしかありません……お義兄様、できればアドルグには聞かせたくないのですが」
「アドルグはヴェルード公爵家を何れ背負うことになる。聞かせぬ訳にもいかぬだろう」
「……そうですか」
母親からの視線に、アドルグは居たたまれなくなっていた。
とはいえ、彼もその場を離れるつもりはない。ヴェルード公爵家の次期当主として、ここにいることが自分の使命であると、彼は強く認識しているからだ。
1,812
お気に入りに追加
3,145
あなたにおすすめの小説

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

【完結】婚約破棄されたので田舎に引きこもったら、冷酷宰相に執着されました
21時完結
恋愛
王太子の婚約者だった侯爵令嬢エリシアは、突然婚約破棄を言い渡された。
理由は「平凡すぎて、未来の王妃には相応しくない」から。
(……ええ、そうでしょうね。私もそう思います)
王太子は社交的な女性が好みで、私はひたすら目立たないように生きてきた。
当然、愛されるはずもなく――むしろ、やっと自由になれたとホッとするくらい。
「王都なんてもう嫌。田舎に引きこもります!」
貴族社会とも縁を切り、静かに暮らそうと田舎の領地へ向かった。
だけど――
「こんなところに隠れるとは、随分と手こずらせてくれたな」
突然、冷酷無慈悲と噂される宰相レオンハルト公爵が目の前に現れた!?
彼は王国の実質的な支配者とも言われる、権力者中の権力者。
そんな人が、なぜか私に執着し、どこまでも追いかけてくる。
「……あの、何かご用でしょうか?」
「決まっている。お前を迎えに来た」
――え? どういうこと?
「王太子は無能だな。手放すべきではないものを、手放した」
「……?」
「だから、その代わりに 私がもらう ことにした」
(いや、意味がわかりません!!)
婚約破棄されて平穏に暮らすはずが、
なぜか 冷酷宰相に執着されて逃げられません!?

婚約者を友人に奪われて~婚約破棄後の公爵令嬢~
tartan321
恋愛
成績優秀な公爵令嬢ソフィアは、婚約相手である王子のカリエスの面倒を見ていた。
ある日、級友であるリリーがソフィアの元を訪れて……。

婚約者に冤罪をかけられ島流しされたのでスローライフを楽しみます!
ユウ
恋愛
侯爵令嬢であるアーデルハイドは妹を苛めた罪により婚約者に捨てられ流罪にされた。
全ては仕組まれたことだったが、幼少期からお姫様のように愛された妹のことしか耳を貸さない母に、母に言いなりだった父に弁解することもなかった。
言われるがまま島流しの刑を受けるも、その先は隣国の南の島だった。
食料が豊作で誰の目を気にすることなく自由に過ごせる島はまさにパラダイス。
アーデルハイドは家族の事も国も忘れて悠々自適な生活を送る中、一人の少年に出会う。
その一方でアーデルハイドを追い出し本当のお姫様になったつもりでいたアイシャは、真面な淑女教育を受けてこなかったので、社交界で四面楚歌になってしまう。
幸せのはずが不幸のドン底に落ちたアイシャは姉の不幸を願いながら南国に向かうが…

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
転生先がヒロインに恋する悪役令息のモブ婚約者だったので、推しの為に身を引こうと思います
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【だって、私はただのモブですから】
10歳になったある日のこと。「婚約者」として現れた少年を見て思い出した。彼はヒロインに恋するも報われない悪役令息で、私の推しだった。そして私は名も無いモブ婚約者。ゲームのストーリー通りに進めば、彼と共に私も破滅まっしぐら。それを防ぐにはヒロインと彼が結ばれるしか無い。そこで私はゲームの知識を利用して、彼とヒロインとの仲を取り持つことにした――
※他サイトでも投稿中
ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。
光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。
昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。
逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。
でも、私は不幸じゃなかった。
私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。
彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。
私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー
例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。
「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」
「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」
夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。
カインも結局、私を裏切るのね。
エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。
それなら、もういいわ。全部、要らない。
絶対に許さないわ。
私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー!
覚悟していてね?
私は、絶対に貴方達を許さないから。
「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。
私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。
ざまぁみろ」
不定期更新。
この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる