刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。繁栄も滅亡も、私の導き次第で決まるようです。

木山楽斗

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69.狙われる竜①

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 飛び去って行くフェリナとリルフを、ローディスは見つめていた。流石の彼でも、空を飛ぶ竜を追いかけることはできない。そのため、ただその様を見ていることしかできないのである。

「ふっ……」

 そんなローディスは、自然と笑みを零していた。標的を取り逃がしたというのに、どこか清々しい気分であり、それが不思議だったのだ。
 彼は、その理由をすぐに理解した。あのフェリナという少女の中にある思いを見せつけられて、それを素晴らしいものだと思ったからだ。
 障害でしかないはずの彼女に対して、ローディスは敬意を持っていた。彼女であるならば、きっと竜を正しい方向へ導き、この国を繁栄させるのだろう。同時に、そのようなことも思った。

「だが、それもまた竜に運命を握られているということ……」

 しかし、それでもローディスは竜を許容することができなかった。
 彼にとって、竜がもたらすのが繁栄でも滅亡でも関係はない。人間の国の運命を決めるのが竜であるという事実が、彼にとっては気に入らないもなのなのだ。

「次に会う時は、容赦はしない……最早、俺はお前を敵と思うぞ、フェリナよ」

 ローディスは誰に聞かせる訳もなく、そう呟いていた。彼にとって、フェリナは目的を邪魔する障害であると同時に、守るべき市民でもあった。だから、彼女を殺すことを躊躇っていたのだ。
 だが、ローディスは今その考えを捨てることにした。それが、彼女に対する一番の敬意だと思ったからだ。
 騎士としてではなく、一人の戦士として、ローディスはフェリナを敵と定めた。それは、好敵手と定めだといっても、間違いではないかもしれない。

「ローディス様」
「ウェルデインか」
「逃げられたのですか?」
「ああ、そうなった。どうやら、奴らはかなり手強いようだ」
「竜はともかく、あんな少女が、ですか?」
「そうだ」

 騒ぎを聞きつけたのかやって来たウェルデインは、ローディスの言葉に目を丸くした。
 フェリナという少女を、ローディスがそこまで評価したことに、彼は違和感を覚えているのだろう。

「騒ぎの収束に当たらなければならんな……陛下には俺から言い訳しておこう。ウェルデイン、お前はすぐにアルバナスに向かう準備をしろ」
「それは、竜の討伐の準備ですか?」
「違う。終末を望む会の討伐の準備だ。竜の討伐に関しては、大々的に動く訳にはいかない。そちらは、少数精鋭で動くぞ」
「わかりました……では、手配をしておきます」
「ああ、任せた」

 それだけ言って、ローディスは歩き始めた。彼の心の中には、ある思いが芽生えていた。もう一度、フェリナとリルフと戦いたいという一介の戦士としての思いが、今の彼を突き動かしているのだ。
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