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45.迷える心①

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「……うん?」

 私は、ゆっくりと目を覚ました。目の前に広がっているのは、暗闇である。どうやら、まだ夜であるらしい。
 こんな時間に目を覚ますのは、珍しいことである。普段は、朝までぐっすりと眠れるはずなのに。
 やはり、私も今日、もしくは昨日の出来事を気にしているのかもしれない。そうでなければ、こんな時間に目は覚まさないはずである。

「……あれ?」

 目を覚ました私は、あることに気がついた。眠る前に感じていた温もりがなくなっているのだ。
 もしかして、またリルフの姿が変わったのか。そう考えたが、布団の中を探ってもリルフが見つからない。

「……え? そ、そんな……まさか!」

 暗闇に目が慣れてきた私は、布団の端が不自然に歪んでいることに気がついた。その光景は、誰かがこっそりと出て行ったように見える。
 考え過ぎなのだろうか。だが、実際にリルフはいなくなっている。ということは、あの子がどこかに行ったと考えるべきだろう。

「どうして……いや、そんなことを考えている場合ではない!」

 私は、急いでベッドから立ち上がり、部屋から飛び出した。すぐにでもリルフを探しに行かなければならない。そう思ったが、私はそこで一度踏み止まる。
 冷静に考えてみれば、今私がやらなければならないのは、この宿から飛び出していくことではない。兄貴達に知らせることだ。
 一人で探すよりも、皆で探す方がいいに決まっている。という訳で、私は衝動を抑えて兄貴の部屋に向かって行く。

「兄貴、起きて!」
「……フェリナ! 何かあったのか!」

 私が部屋の戸を叩くと、兄貴はすぐに反応してくれた。騎士であるため、こういう事態には慣れているのかもしれない。

「兄貴、リルフがいなくなったんだ」
「なんだって!」
「私が寝ている間に、抜け出したみたいなんだ」
「そうか……」

 兄貴は少し表情を強張らせた。当然のことながら、これは非常にまずい事態なのだろう。
 子供が家出するだけでも、それは一大事だ。リルフの場合は、さらにあの集団に狙われているという事実がある。普通よりもさらに危険な状況なのだ。

「リルフがどこに行くか心当たりはないのか?」
「わからない……あの子がこの町で知っているのは、こことラナキンス伯爵家くらいだし……」
「そうか……」

 兄貴の質問に、私は頭を悩ませることになった。
 リルフが行く場所に、心当たりはない。まだ生まれたばかりのあの子は、この町のことをそこまで知っている訳ではないはずだ。そんなあの子は、どこに行くのだろうか。
 情けない話だが、私は母親でありながらあの子のことをわかっていない。そのことが、とても辛かった。
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