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90.明るい未来へと
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純白のウェディングドレスに身を包みながらも、私は未だに結婚というものに対してあまり実感が湧いていなかった。
それは恐らく、その出来事によって、私とクルレイド様の関係がそれ程変わることがないからだろう。
年齢的な諸事情により結婚していなかっただけで、私とクルレイド様は既に夫婦のようなものだった。私もそのつもりだったし、きっとクルレイド様もそうだっただろう。
「まあ、区切りということかしらね……」
「……レミアナさん、入ってもいいですか?」
「クルレイド様? ええ、どうぞ」
私がそんなことを考えると、部屋の戸を叩く音が聞こえてきた。
私の準備が終わったことを聞きつけて、クルレイド様が訪ねて来たようだ。
「失礼します……おっと」
「クルレイド様?」
部屋に入ってきたクルレイド様は、その動きを止めていた。
目を丸めて硬直するその様は、少し心配になってくる。一体どうしたのだろうか。
「どうかしましたか?」
「す、すみません。レミアナさんがあまりにもお綺麗だったので……」
「……そうですか? それは、ありがとうございます」
クルレイド様は、顔を少し赤くしながら私のことを褒め讃えてくれた。
それには、私の方も恥ずかしくなってくる。ただ、そう言ってもらえるのはとても嬉しい。
「クルレイド様も、よく似合っていますよ?」
「ありがとうございます。なんというか、服に着られているような気もするんですが」
「そんなことはありませんよ。かっこいいです」
当然のことながら、クルレイド様も正装をしている。特注で作られた同じく純白のタキシードは、彼によく似合っていると思う。
「本当に、クルレイド様も大人になられましたね……初めて会った時から考えると、なんだか感慨深いです」
「大人になれているというなら嬉しく思います。ただ、それを言ったらレミアナさんだって素敵な大人の女性になられていますよ?」
「なるほど……そう考えると、私達は随分と長い付き合いですね?」
「まあ、初めて会った時から考えるとそうですね……」
私は、クルレイド様のことを見上げていた。
初めて彼と会った時には、このような関係になるなんて思っていなかった。思えば不思議な縁である。ロンダーが彼と仲良くなっていなかったら、私の運命はまた変わっていたかもしれない。
「クルレイド様と出会えたことは、本当に幸福なことだと思っています」
「レミアナさん、それを言うなら俺の方ですよ。あなたに出会えたことは、何よりも幸福なことだと思っていますから」
「お互い様という訳ですか……」
「レミアナさん?」
私は、クルレイド様との距離を一歩だけ詰めた。
それに対して、彼は少し顔を赤くしている。ただ、彼は私から離れようとはしない。その距離感が、なんとなく嬉しかった。
「クルレイド様、せっかくの機会ですから、一つだけ言っておきたいことがあるんです」
「言っておきたいこと? なんですか?」
「私は、あなたのことを愛しています」
「……え?」
「ちゃんと言っておかなければならないと思ったんです。正式に結婚する訳ですからね」
「レミアナさん……」
私は、クルレイド様に今の自分の素直な気持ちを口にした。
少し恥ずかしいが、これは必要なことである。これからのためにも、言葉にしておくべきことだ。
「……俺もレミアナさんのことは愛しています。どうかこれからもよろしくお願いします」
「ええ、もちろんです……」
そこで私は、少し背伸びをすることになった。
驚いたのか、クルレイド様の体が少し震えた。しかしすぐに、その震えは止まる。私のことを受け入れてくれたということだろう。
「……誓いのキスには、少し早いと思うのですが」
「クルレイド様は恥ずかしがり屋ですからね。練習しておかないと、駄目かと思いまして」
「なるほど、それは確かにそうですね……ふふ、俺はレミアナさんに敵わなさそうです」
「ふふ、そうですか……」
私とクルレイド様は、笑い合った。
私はこれからも、彼を支えていく。そして彼はきっと、私のことを守ってくれるだろう。
そんな風に、私達は幸せな日々を歩んでいく。私達の未来は、とても明るいのだ。
END
それは恐らく、その出来事によって、私とクルレイド様の関係がそれ程変わることがないからだろう。
年齢的な諸事情により結婚していなかっただけで、私とクルレイド様は既に夫婦のようなものだった。私もそのつもりだったし、きっとクルレイド様もそうだっただろう。
「まあ、区切りということかしらね……」
「……レミアナさん、入ってもいいですか?」
「クルレイド様? ええ、どうぞ」
私がそんなことを考えると、部屋の戸を叩く音が聞こえてきた。
私の準備が終わったことを聞きつけて、クルレイド様が訪ねて来たようだ。
「失礼します……おっと」
「クルレイド様?」
部屋に入ってきたクルレイド様は、その動きを止めていた。
目を丸めて硬直するその様は、少し心配になってくる。一体どうしたのだろうか。
「どうかしましたか?」
「す、すみません。レミアナさんがあまりにもお綺麗だったので……」
「……そうですか? それは、ありがとうございます」
クルレイド様は、顔を少し赤くしながら私のことを褒め讃えてくれた。
それには、私の方も恥ずかしくなってくる。ただ、そう言ってもらえるのはとても嬉しい。
「クルレイド様も、よく似合っていますよ?」
「ありがとうございます。なんというか、服に着られているような気もするんですが」
「そんなことはありませんよ。かっこいいです」
当然のことながら、クルレイド様も正装をしている。特注で作られた同じく純白のタキシードは、彼によく似合っていると思う。
「本当に、クルレイド様も大人になられましたね……初めて会った時から考えると、なんだか感慨深いです」
「大人になれているというなら嬉しく思います。ただ、それを言ったらレミアナさんだって素敵な大人の女性になられていますよ?」
「なるほど……そう考えると、私達は随分と長い付き合いですね?」
「まあ、初めて会った時から考えるとそうですね……」
私は、クルレイド様のことを見上げていた。
初めて彼と会った時には、このような関係になるなんて思っていなかった。思えば不思議な縁である。ロンダーが彼と仲良くなっていなかったら、私の運命はまた変わっていたかもしれない。
「クルレイド様と出会えたことは、本当に幸福なことだと思っています」
「レミアナさん、それを言うなら俺の方ですよ。あなたに出会えたことは、何よりも幸福なことだと思っていますから」
「お互い様という訳ですか……」
「レミアナさん?」
私は、クルレイド様との距離を一歩だけ詰めた。
それに対して、彼は少し顔を赤くしている。ただ、彼は私から離れようとはしない。その距離感が、なんとなく嬉しかった。
「クルレイド様、せっかくの機会ですから、一つだけ言っておきたいことがあるんです」
「言っておきたいこと? なんですか?」
「私は、あなたのことを愛しています」
「……え?」
「ちゃんと言っておかなければならないと思ったんです。正式に結婚する訳ですからね」
「レミアナさん……」
私は、クルレイド様に今の自分の素直な気持ちを口にした。
少し恥ずかしいが、これは必要なことである。これからのためにも、言葉にしておくべきことだ。
「……俺もレミアナさんのことは愛しています。どうかこれからもよろしくお願いします」
「ええ、もちろんです……」
そこで私は、少し背伸びをすることになった。
驚いたのか、クルレイド様の体が少し震えた。しかしすぐに、その震えは止まる。私のことを受け入れてくれたということだろう。
「……誓いのキスには、少し早いと思うのですが」
「クルレイド様は恥ずかしがり屋ですからね。練習しておかないと、駄目かと思いまして」
「なるほど、それは確かにそうですね……ふふ、俺はレミアナさんに敵わなさそうです」
「ふふ、そうですか……」
私とクルレイド様は、笑い合った。
私はこれからも、彼を支えていく。そして彼はきっと、私のことを守ってくれるだろう。
そんな風に、私達は幸せな日々を歩んでいく。私達の未来は、とても明るいのだ。
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