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89.これからも

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「……相変わらず味が濃いですね」
「ええ、でもそれがいいんですよね……」

 せっかく王都に来たため、私はクルレイド様の行きつけである味の濃い定食屋にやって来ていた。
 この定食屋がまだやっていたという事実には、正直驚いている。この味の店がどうして続いているのかは、よくわからない。
 ただ、この店のデザートは絶品である。その辺りを目当てに、人が来ているのだろうか。

「それにしても、今回は色々と大変でしたね……レミアナさん、お付き合いくださり、本当にありがとうございました」
「クルレイド様、そういう言い方は嫌いです」
「え?」

 クルレイド様の言葉に、私は少し強めの語気で返答をしてしまった。
 ただ、そうなるくらいクルレイド様の今の言葉はひどかったとも思う。今の言葉はまるで、他人にかける言葉のようだった。私達の関係で、それはないだろう。

「私に遠慮したりする必要はありませんよ。私とクルレイド様の仲ではありませんか。それとも、そう思っているのは私だけだったのでしょうか? そうだとしたら、少し悲しいですけれど」
「い、いえ、そんなことはありません。レミアナさんは、俺にとって最も大切で、一番頼れる人ですから!」
「そうですか……」

 私の少し意地悪な言葉に、クルレイド様は真っ直ぐな言葉を返してくれた。
 それを聞いたおかげで、心は随分と軽くなった。なんというか、自分が思っていた以上安心している自分がいる。私は先程の言葉に、結構傷ついていたようだ。

「あ、大声を出してしまってすみません。他のお客さんにも迷惑をかけてしまって……うん?」
「……私達しか、いませんね」
「ええ……」

 大きな声を出してしまったため、クルレイド様は周囲を見渡した。
 ただ、この定食屋には他のお客さんはいない。相変わらず、閑古鳥が鳴いているのだ。
 というか、店主もいなくなっている。店の奥に行ってしまったのだろうか。

「本当に、この店はどうして続いているんでしょうね? ここまでお客さんがいなくて、続けられるものなのでしょうか? 正直、不思議です」
「俺は好きな店ですが、それは確かにそうですね……まあそのお陰もあって、この店に来られているという面もありますから、俺にとってはいいことといえてしまうんですけど」
「ふふ、それはひどい話ですけれどそうですね」
「ははっ」

 私とクルレイド様は、そこで同時に笑い合っていた。
 こういう時間が、なんだかとても幸せだ。これからも、クルレイド様とこんなに日常を過ごしたい。私はそんなことを思うのだった。
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