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85.彼女の迷い

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「クルレイド殿下、一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「はい、なんですか?」
「私が引き取らなかった場合、その子はどうなるのでしょうか?」

 ずっと考えるような仕草をしていたマルセアさんは、クルレイド様にそのような質問をした。
 彼女の質問に対して、今度はクルレイド様が考えるような仕草を見せる。ここで断れた場合どうするかは、そこまで話し合っていないため、考えているのだろう。

「そうですね……孤児院などに入れるというのが現実的な所でしょうか。ただ、子供の素性に関しては秘密にするべきことですから、念には念を入れてこちらの国の孤児院辺りに入れるというのがいいでしょうか」
「こちらの国に、ですか?」
「より念を入れるなら、そうした方がいいでしょう。こちらの国である必要はありませんが……マルセアさん、心当たりはありませんか?」
「……まあ、ないという訳ではありませんが」

 クルレイド様は、マルセアさんに断られたとしても協力を要請するつもりであるようだ。
 その筋では高名な彼女であるなれば、色々な伝手はあるだろう。協力してもらえるなら、そうしてもらった方がいいかもしれない。先程も言っていたように口は堅いだろうし、私達にとっては心強い味方になってくれそうだ。

「とにかく、子供はランカーソン伯爵夫人から切り離さざるを得ません。彼女の子供というだけで、色々な風評被害を受けるでしょうからね」
「まあ、それはそうですよね……国家に反逆した伯爵夫人の娘なんて」
「先程述べたのは、案の一つに過ぎません。まあ、あなたが断るというなら、改めて考えるつもりです」
「そうですか……」

 クルレイド様の説明を聞いたマルセアさんの表情は、かなり曇っていた。
 ランカーソン伯爵夫人の子供が置かれている厳しい状況に、心を痛めているのだろう。
 ただだからといって、マルセアさんに引き取る義務はない。そもそも子供を一人預かるというのは、夫人の事情を抜きにしても大変なことだ。断る方が当然といえるかもしれない。

「……あの子は子供について、何を思っているのですか?」
「ランカーソン伯爵夫人は、子供の幸せを願っていますよ」
「幸せ……私の元に寄越すことが、幸せだと?」
「ええ、そう考えているようですね」
「馬鹿な子ね……」

 マルセアさんは、少し呆れたような感じで呟いた。
 それはなんというか、思わず出てしまったといった感じだ。クルレイド様越しに聞いたランカーソン伯爵夫人の言葉に、零れてしまったといった所だろうか。
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