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84.難しい頼み
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「大方の事情は理解することができました。要するにお二人は、その子供の処遇のために私の元に来たという訳ですか」
「ええ、そんな所です」
マルセアさんの言葉に、クルレイド様はゆっくりと頷いた。
彼女は既に、ランカーソン伯爵夫人の子供がどういう存在であるかを理解しているようだ。
「ああ、このことはどうかご内密にお願いします。俺達がわざわざここに来たのは、この事実を限られた人にしか知らせることができないからですから」
「その辺りのことは心得ています。まあ、お二人には信用できないかもしれませんが、職業柄秘密口は堅いですから」
マルセアさんは、言いながら苦笑いを浮かべていた。それは恐らく、ランカーソン伯爵夫人のことを思い出しているからだろう。
彼女の口は堅いとは言い難かった。そう考えると、確かにマルセアさんの言葉への信頼性も低くなるかもしれない。
ただ、私もクルレイド様もわかっている。それに関しては、ランカーソン伯爵夫人が例外なのだということを。
「さて、俺達があなたに頼みたいのは、その子供のことです。その子の父親はわかっていません。ランカーソン伯爵夫人は、これからも檻の中ですから、引き取り手を探しているのです」
「……私に引き取れと仰っているのですか?」
「お願いできませんか?」
クルレイド様の言葉に、マルセアさんはその表情を歪めていた。
そういう反応をするかもしれないとは予想していたことである。急にこんなことを言われて、すぐに受け入れられるはずはないだろう。
「……正直な所、困ってしまいますね。いきなりそんなことを言われても」
「そうでしょうね」
「私は既にあの子と決別した身です。そんな私に、どうしてお願いを?」
「ランカーソン伯爵夫人の身内と呼ばれる人が、あなたしかいないからです。ランカーソン伯爵夫人も、できることならあなたに頼みたいと思っているようです」
マルセアさんはゆっくりと目を瞑り、椅子にもたれかかった。
かなり動揺しているのだろう。その動きから、それが伝わってくる。
かつて決別した妹分からのお願い、それをマルセアさんは、どう捉えているのだろうか。
「随分と勝手な話ですね。ああ、これはあなた方に言っている訳ではありません。あの子のことです。勝手に出て行った癖に、そんなことを頼むなんて」
「まあ、そう思われるのも無理はないでしょうね」
「本当に、あの子には困らされたものです。ここに来た時からずっと自分勝手で……」
マルセアさんの中には、愛と憎しみが同居しているのだろう。彼女の語り口調は、そんな微妙な機微が現れている。
故に彼女は、迷っているのだろう。ランカーソン伯爵夫人の子供を引き取るべきかどうかを。
「ええ、そんな所です」
マルセアさんの言葉に、クルレイド様はゆっくりと頷いた。
彼女は既に、ランカーソン伯爵夫人の子供がどういう存在であるかを理解しているようだ。
「ああ、このことはどうかご内密にお願いします。俺達がわざわざここに来たのは、この事実を限られた人にしか知らせることができないからですから」
「その辺りのことは心得ています。まあ、お二人には信用できないかもしれませんが、職業柄秘密口は堅いですから」
マルセアさんは、言いながら苦笑いを浮かべていた。それは恐らく、ランカーソン伯爵夫人のことを思い出しているからだろう。
彼女の口は堅いとは言い難かった。そう考えると、確かにマルセアさんの言葉への信頼性も低くなるかもしれない。
ただ、私もクルレイド様もわかっている。それに関しては、ランカーソン伯爵夫人が例外なのだということを。
「さて、俺達があなたに頼みたいのは、その子供のことです。その子の父親はわかっていません。ランカーソン伯爵夫人は、これからも檻の中ですから、引き取り手を探しているのです」
「……私に引き取れと仰っているのですか?」
「お願いできませんか?」
クルレイド様の言葉に、マルセアさんはその表情を歪めていた。
そういう反応をするかもしれないとは予想していたことである。急にこんなことを言われて、すぐに受け入れられるはずはないだろう。
「……正直な所、困ってしまいますね。いきなりそんなことを言われても」
「そうでしょうね」
「私は既にあの子と決別した身です。そんな私に、どうしてお願いを?」
「ランカーソン伯爵夫人の身内と呼ばれる人が、あなたしかいないからです。ランカーソン伯爵夫人も、できることならあなたに頼みたいと思っているようです」
マルセアさんはゆっくりと目を瞑り、椅子にもたれかかった。
かなり動揺しているのだろう。その動きから、それが伝わってくる。
かつて決別した妹分からのお願い、それをマルセアさんは、どう捉えているのだろうか。
「随分と勝手な話ですね。ああ、これはあなた方に言っている訳ではありません。あの子のことです。勝手に出て行った癖に、そんなことを頼むなんて」
「まあ、そう思われるのも無理はないでしょうね」
「本当に、あの子には困らされたものです。ここに来た時からずっと自分勝手で……」
マルセアさんの中には、愛と憎しみが同居しているのだろう。彼女の語り口調は、そんな微妙な機微が現れている。
故に彼女は、迷っているのだろう。ランカーソン伯爵夫人の子供を引き取るべきかどうかを。
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