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72.弟の願い

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「それにしても、姉上とクルレイドさんが婚約するなんて、少し驚きました」
「ロンダー……まあ、そうか」
「やっと長年の想いが叶ったんですね?」
「む……」

 ロンダーの言葉に、クルレイド様は少し驚いたような表情をしていた。
 話の流れからして、ロンダーはクルレイド様の私への想いを知っていたということだろう。それについては、私にとっても驚きである。まったく知らなかった。

「し、知っていたのか?」
「あ、はい。それはまあ、一応……」
「……まあ、俺がわかりやすいということか」
「いえ、そんなことはありませんよ」
「気を遣わなくてもいいさ。わかっているんだ。単純だってことは……」

 ロンダーの指摘によって、クルレイド様は少し落ち込んでいた。
 クルレイド様は、とても純粋な人である。恐らく、隠しごとなどはできないタイプであるだろう。
 ただ、私はそんな彼の想いにまったく気付いていなかった。なんというか、自分の鈍感具合が嫌になってくる。

「そんなことよりも、クルレイドさんは僕の兄上になるということですよね?」
「うん? ああ、そういうことになるのか」
「それはなんだか、嬉しいです。前々から、兄上のようには思っていましたけど……」
「まあ、それは俺も同じさ。ロンダーのことは、弟のように思っていたとも」
「そう言っていただけるのは嬉しいです」

 ロンダーは言いながら、目を輝かせていた。
 彼は、前々からクルレイド様のことを慕っている。そんな彼と義理の兄弟ということに、かなり喜びを感じているのだろう。それがその表情から伝わってくる。

「……ただ、クルレイドさん。姉上のことは幸せにしてくださいね?」
「む……」
「アルペリオ侯爵令息のせいで、姉上はたくさん傷つきました。だから今度の婚約は姉上にとって幸福なものであって欲しいんです。クルレイドさんが相手なら、大丈夫だとは思っていますけど……」

 そこでロンダーは、真剣な顔でそんなことを言った。
 その言葉に、私は固まってしまう。弟の自分に対する強い思いやりを感じたからだ。
 なんというか、とても嬉しい。思わず笑みが零れてしまう。

「……もちろんだ。レミアナ嬢のことは必ず幸せにする。ロンダー、約束するよ」
「その言葉を聞けて安心しました。クルレイド様、姉上のことをよろしくお願いします」
「ああ、任せてくれ」

 ロンダーの言葉に対して、クルレイド様は真剣な表情で言葉を返してくれていた。
 その言葉もとても嬉しい。クルレイド様の思いやりも、伝わってきた。彼なら本当に幸せにしてくれると、そう思える。
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