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64.剣を向けて

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「アルペリオ侯爵令息、随分と大胆な真似をしてくれたな……王城でこんな騒ぎを起こした罪は重いぞ」
「……ふふっ」

 クルレイド様は、アルペリオ侯爵令息に対してゆっくりと言葉をかけていた。
 それに対して、アルペリオ侯爵令息は笑う。その笑みは、不気味な笑みだ。こんな状況であるというのに、どこか余裕も伺える。

「……何がおかしい?」
「ふふっはははっ! これで僕も終わりか!」

 アルペリオ侯爵令息の笑みに、周囲の人々は固まっていた。
 彼の笑いの意味がわからない。どう考えたって、今は笑うべき状況ではないはずだ。

「……殺せよ」
「……何?」
「どうせ僕は、これで終わりだ。牢屋に入れられて、死刑を待つなんて面倒だろう。それならここで引導を渡してもらった方がいい」

 アルペリオ侯爵令息は、先程までとは打って変わって無表情になっていた。
 彼の要求は、非常に身勝手なものだ。どの立場で、要求しているのだろうか。その意味がわからない。
 しかしクルレイド様は、真剣な顔をしている。もしかしたら彼は、アルペリオ侯爵令息の言葉を本気で受け止めているのかもしれない。

「……いいだろう。せめてものの情けだ。これ以上生き恥を晒す前に、ここで俺が引導を渡してやろう」

 クルレイド様は、ゆっくりとその剣を振り上げた。
 しかし彼の動きは、すぐに止まる。彼が躊躇っていることは明らかだ。
 それを見て、アルペリオ侯爵令息は笑う。それは心底、人を馬鹿にしたような笑みだ。

「おやおや、第二王子にはそんな勇気がなかったか……」
「……なんだと?」
「僕の命を奪う覚悟が決められないんだろう? ふふ、情けない王子だ……」

 アルペリオ侯爵令息は、クルレイド様を煽っていた。
 その様子は、まるでランカーソン伯爵夫人だ。長い間一緒にいたこともあって、アルペリオ侯爵令息は彼女の影響を受けているのかもしれない。
 いや、これはどちらかというと諦めの気持ちからの煽りだろうか。どの道終わりなら、好きなように振る舞う。そんな心境なのかもしれない。

「……結局君には、覚悟がないんだろう? 君みたいな奴にはレミアナに相応しくはない! やはり彼女は僕のものだ!」
「何をっ……」
「例え捕まっても、脱獄してレミアナの元に行ってやる! 僕は彼女を逃がさない!」
「貴様……!」

 アルペリオ侯爵令息の言葉に、クルレイド様は大きく剣を振り上げた。私のことを引き合いに出されて、堪忍袋の緒が切れたのだろう。
 それを悟った瞬間、私の体は動いていた。クルレイド様を止めなければならない。そう思ったのだ。
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