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60.侯爵令息からの謝罪

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 私とクルレイド様は、王城の玄関付近まで来ていた。
 そこには、見覚えがある男性がいる。少し痩せただろうか。アルペリオ侯爵令息は、私を見つけて笑顔を浮かべている。

「……レミアナ、来てくれたのか?」
「アルペリオ侯爵令息、こんな所に訪ねて来るなんて一体どういうつもりですか? 言っておきますが、私とあなたはもう無関係ですよ?」

 私の心は既に、アルペリオ侯爵令息と決別している。彼に対して感じているのは、ランペシー侯爵への義理だけだ。
 アルペリオ侯爵令息は、それを理解していないのだろうか。こうして私を訪ねて来たということは、そういうことなのかもしれない。

「……本当にすまなかった。君には、申し訳ないことをしたと思っている」
「はい?」
「僕が間違っていた。ランカーソン伯爵夫人に惑わされて、僕はひどいことをしてしまった……」
「ア、アルペリオ侯爵令息……」

 そんなことを思っていると、アルペリオ侯爵令息がその場に跪いた。
 彼は、それなりに人の視線がある場所で頭を下げている。
 その行為に、私は少し驚いた。もしかして、本当に反省しているのだろうか。

「許されないことをしたことはわかっている。ただ、どうしても君に改めて謝罪したかったんだ。この通りだ……」
「……アルペリオ侯爵令息、あなたが心から反省しているというなら、私としても嬉しい限りです。ランペシー侯爵のためにも、これからは貴族として慎みある行動を心掛けてください。私から言えるのは、そのくらいです」

 アルペリオ侯爵令息の謝罪に対して、私はそのような言葉を返した。
 それは私の本心だ。ランペシー侯爵のことを思うと、なんだか安心できる。
 もっとも、それで私と彼との関係が修復されるという訳ではない。それとこれとは話が違う。

「レミアナ、君は優しいな……」
「……レミアナ嬢!」
「えっ? あっ……!」

 そこで私は、浮き上がるような感覚に陥った。
 アルペリオ侯爵令息が、突然立ち上がって私の体を引き寄せてきたのである。
 そして私は、首元に冷たいものが当たっていることに気付いた。それはまず間違いなく、ナイフの類だ。動いてはいけない。それを理解した私は、アルペリオ侯爵令息の動きに従わざるを得なかった。

「こ、これは……うっ!」
「動くな! 動くとレミアナの命はないぞ!」

 アルペリオ侯爵令息は、私を拘束しながら周囲にそう宣言した。
 どうやら彼は、反省してここに来たという訳ではないらしい。
 それ所か、彼は何かとんでもないことをしようとしている。王城で私を拘束している時点でそれは間違いない。
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