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58.嬉しいこと

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「……初めてあなたのことを見た時、俺は戸惑いました。その時はよくわからなかったんです。自分の心の中にある感情が、どういうものであるかということを」
「そ、そうだったのですね……」
「ええ……」

 クルレイド様は、恥ずかしそうにしていた。
 それはそうだろう。彼は実質的に、愛の告白をした。その状況で、いきさつを話していることがむしろすごいことなのかもしれない。

「自覚をしたのは、その後のことですね。俺とロンダーが、庭で遊んでいたでしょう? 木に登ったりして……」
「ああ、覚えています。その時私は確か、注意しましたよね? 危ないから駄目ですって」
「………………正に、その言葉をかけられた時に」
「え? あっ、そうなのですか? それはなんというか……」

 クルレイド様は、目を見開いて固まっていた。
 それも当然のことだ。私は偶然とはいえ、彼の心の射止めた言葉を口にした訳だ。動揺するのも無理はない。
 私の方も、正直困惑している。なんと言っていいのかわからない。言い直すのもの違うだろうし、言葉に詰まってしまう。

「その……だからすみません。兄上があなたに婚約の話を持ち掛けたのは、俺の想いを知っていたからなのです」
「……それは謝ることではありませんよ。婚約相手から愛されているというなら、それは良いことであるはずですから」

 クルレイド様は、私に頭を下げてきた。
 だが、ギルドルア様の行いに私情が入っていたとしても、特に気にはならない。それはデメリットにはなり得ないからだ。

「クルレイド様からそういう想いを向けられていたという事実を、私は嬉しく思っています。ですから、頭を上げてください」
「……わかりました」
「あ、言っておきますが、お世辞ではありませんよ。私は、本当にそう思っているんです」

 クルレイド様に想われているということは、素直に嬉しかった。
 彼のことは、尊敬している。人間的に、好感が持てる人だと思っているのだ。
 そういう人から想われているという事実に、悪い気はしない。むしろ、気分はとても良いくらいだ。

「……まあ、まだお父様に相談したりしなければならないので、一概には言えませんが、どうかよろしくお願いします、クルレイド様」
「レミアナ嬢……こちらこそ、どうかよろしくお願いします」

 私とクルレイド様は、お互いに頭を下げ合った。
 これからどうなるかは、定かではない。だが、できれば私は彼と婚約したいと思っている。クルレイド様の想いに応えたいという気持ちが、私には少なからずあるのだ。
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