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57.動揺した理由

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「さてと……何から話すべきでしょうかね」
「えっと……それは、クルレイド様に判断していただくしかないかと」
「まあ、そうですよね」

 私の正面に座り直したクルレイド様は、なんというか歯切れが悪かった。
 彼は悩んでいるのだろう。事情というものをどこから話すべきか、急な話であるためまとまっていなくても仕方ない。私はクルレイド様が話し始めるのを待つことにする。

「レミアナ嬢は、俺と初めて会った時のことを覚えていますか?」
「クルレイド様と初めて会った時ですか? えっと、それは多分、屋敷で会った時のことということでしょうか?」
「あ、ええ、そうですね。その時です」

 クルレイド様の質問に、私は少しぎこちなく答えることになった。
 彼のことを、私は一方的に知っていた。ただ会ったといえるのは、恐らくロンダーと彼が友人になって、エルライド侯爵家に遊びに来た時だろう。

「王都に行ったロンダーが第二王子と友達になったと聞いた時は驚きましたよ……」
「まあ、あの時も色々とありましたね。ただ重要なのは、そこではなく……」
「あ、ええ、私達が出会った時のことですよね? 普通に挨拶をしましたよね?」
「その時からまあ、そうだったのですが」
「はい? なんですか?」

 クルレイド様は、私から目をそらしていた。
 まだ私に何か話しにくいことがあるのだろうか。初めて顔をしっかりと合わせた時、特に何かあった覚えはないのだが。
 いや、もしかしたら私がその時にあった何かを忘れているからこんな反応なのだろうか。もしもそうなら、結構気まずい。

「兄上は言いました。男子というものは年上に憧れる時期があると」
「ああ、そんなことを言っていましたね……」
「俺はある意味、ずっとその時期なのかもしれません」
「ずっとその時期……え?」

 クルレイド様の言葉に、私は固まった。
 もしかして、私は今までの間ずっと鈍感だったのだろうか。言葉の意味を考えて、私はそんなことを思った。
 目の前にいるクルレイド様は、頬を染めている。それはつまり、そういうことなのだろう。

「クルレイド様、それは一体どういうこと……なんて聞くのは、野暮ですね。すみません」
「いえ……はっきりと言っておきましょう。俺は一目惚れというものを経験したのだと思います」
「一目惚れ、ですか……なるほど、そういうことでしたか」

 私は、クルレイド様と接してきたこれまでのことを思い出していた。
 思い返してみると、なんだか色々なことが腑に落ちてくるような気もする。本当に私は、なんとも鈍感だったのかもしれない。
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