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56.動揺する第二王子

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「クルレイド、どうかしたのかい? 君は、レミアナ嬢の婚約に何か不満でもあるのかな?」
「不満、という訳ではありませんが……」

 ギルドルア様の質問に、クルレイド様は言葉を詰まらせた。
 それは私に気を遣ってのことかもしれない。クルレイド様は紳士なので、本人を前にして婚約に不満があるとは言いにくいだろう。

「クルレイド様、私に気を遣っていただかなくても結構ですよ。不満であるなら不満であると、はっきりとそう告げていただいて大丈夫です」
「あ、いや、レミアナ嬢、そういうことではないのです。婚約相手があなたであるなら、光栄の極みです」
「お、お世辞ですか……?」
「だからそういう訳ではありませんよ。本当に光栄に思っているんです」

 クルレイド様は、私に勢いよく反論してきた。
 なんというか、彼は必死である。その言葉に恐らく嘘はないだろう。

「でも、それならどうして、そんなに慌てているんですか?」
「そ、それは……」
「ふふっ……」

 クルレイド様の慌てる様子に、ギルドルア様は噴き出していた。
 今まで我慢していたのだろうか。彼はとても楽しそうに笑っている。

「あ、兄上も人が悪いですね。こうなることをわかっていて、婚約の話を持ち掛けたのでしょう?」
「……いや、すまない。ただ、レミアナ嬢が君の婚約者として適切であるということは嘘ではない。今の状況で信じられる貴族というのは貴重だ」
「それはわかっています。わかっていますが……」

 笑うギルドルア様に対して、クルレイド様は立ち上がって抗議していた。
 どうやら、二人の間でこの状況は腑に落ちているようだ。
 しかし私からしたら溜まったものではない。二人だけで話を進められると困ってしまう。

「あの、これはどういうことなんですか?」
「レミアナ嬢、これはその……」
「何、ほんの少しの戯れさ。レミアナ嬢が気にするようなことではない」

 私の質問を、ギルドルア様ははぐらかしてきた。
 私には教えてくれないということだろうか。かなり気になるのだが。

「……兄上、事情を話します」
「ほう?」
「このまま訳もわからないまま婚約するというのは、どうにもばつが悪いですからね」
「なるほど、そういうことならば僕は席を外すとしよう」
「あ、えっ?」

 クルレイド様の言葉に、ギルドルア様は素早く立ち上がった。
 彼はそのまま、部屋から出て行く。言葉通り、席を外したようだ。なんというか、迅速過ぎる対応である。
 よくわからないが、残ったクルレイド様が事情を話してくれるらしい。私はそれを聞いてから、色々と判断すればいいのだろう。
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