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50.身勝手な主張

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「おやおや、ランカーソン伯爵、先程から顔色が悪いですよ」
「そ、そんなことはない」
「何かやましいことでもあるのでしょうか? この際、話した方が楽になれると思いますよ」
「ち、違う!」

 ギルドルア様は、ランカーソン伯爵をどんどんと追い詰めていた。
 伯爵の額からは、汗がゆっくりと流れている。その反応からして、やはりやましい何かがあるのだろう。

「た、確かに私は、この国を支配する計画を立てていた。しかし、今回のことは私には関係ない! 妻の浮気相手のことなど知らん!」
「ほう……」

 ギルドルア様の冷たい視線に観念したのか、ランカーソン伯爵は自供し始めた。
 彼の言葉からは、必死さが伝わってくる。それは当然のことだろう。彼からすれば、命がかかっているのだから。

「やはりあなたは、そういった望みを抱いていましたか……いやそれ所か、実際に計画を立案する段階まで来ていた。その証拠があなたの屋敷にはある」
「し、しかし、私はまだ何もしていない。これは本当だ。野心など、誰でも抱くものだろう」
「残念ながら、そういう訳にはいきません。国家の転覆は、企てた時点で重罪なのです。思想を抱くまでなら我々も許容せざるを得ませんが、計画を立てたなら話は別だ。今回の件に関わっていようがいまいが、あなたの罪は重い」

 ギルドルア様は、ランカーソン伯爵が計画を企てていたことをわかっていたのかもしれない。
 思えば彼は、伯爵を捕まえることにかなりこだわっていた。それは伯爵の過ぎたる野望を、知ったからなのではないだろうか。

「もっとも、あなたがそういった計画を企てていたという事実は、今回の件に関しても不利になりますがね」
「……先程のは言葉の綾だ。野心を抱いていたのは私ではない。あの女なのだ」
「ほう……」

 そこでランカーソン伯爵は、意見を一転させた。
 どうやら彼は、夫人に全ての罪を押し付けることにしたようだ。
 それはせめてもの抵抗なのだろう。首謀者でなければ、極刑にはならない。命だけは助かるのだ。

「つまり、首謀者はあくまで夫人であるとあなたは主張する訳ですか?」
「その通りだ。あの女に私は騙されていたのだ。甘言に乗せられて、計画を立案させられた。あの女こそが、全ての元凶なのだ。私は何も悪くない」
「なるほど……」

 ランカーソン伯爵の態度に、私は少し呆れていた。
 全ての責任を夫人に押し付ける。それはなんともひどい話だ。
 曲がりなりにも、彼女はずっと体を張って伯爵家に利益をもたらしてきた。そんな彼女をねぎらうような気持ちが、ランカーソン伯爵には一切ないということなのだろう。
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