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49.小太りの伯爵

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「このように呼び出されるのは、心外の極みであるのだがね」

 私達の目の前にいる小太りの男性は、不機嫌さを露わにしていた。
 ここに不当に呼び出された。彼としては、そういう主張なのだろう。
 しかしながら、そんなものは通用しない。ここに彼が来る理由なんて、いくらでもあるのだ。

「ランカーソン伯爵、こちらにはあなたの奥様がいるではありませんか。その時点で、ここに来る理由などいくらでもあるかと思いますが……」
「あれとは、既に離婚している。正式な発表はまだだったがね。故にもう他人なのだよ。関わり合う理由はない」

 ランカーソン伯爵は、とても太々しい態度だった。
 事件が起こる前に離婚している。彼は手紙にもその旨を記していたらしい。
 伯爵は、いとも簡単に夫人を切り捨てたのである。今まで彼女の恩恵を多大に受けたにも関わらず。

「あの女の性質は、殿下もご存知であるはずだ。浮気を公然と繰り返すあれには辟易としていた。まさか、こんな事件を起こすとは思っていなかったが……」
「なるほど、あくまでも自分は関係ないと主張する訳ですね」
「ええ、あれがそう言っているだけなのでしょう? 証拠なんてものはないはずです」

 ランカーソン伯爵の主張は、間違っているという訳でもない。
 こちらの根拠は、夫人の証言だけだ。しかもそれは虚偽である。それを証拠にするのは、本来であれば無理な話かもしれない。
 だが、その辺りはギルドルア様だってわかっているはずだ。夫人の時のように、きっと何か用意しているだろう。

「しかしですね、伯爵。今回のような大それたことを夫人が一人で企てていたとは考えにくいのです。僕は国を治める一族の一人として、この事件を詳しく調べる必要がある」
「それならば、調べれば良いでしょう?」
「ええ、だからあなたに協力してもらいたいのです。無実であるというなら、ランカーソン伯爵家の屋敷などを調べても問題はないでしょう」
「いや、それは……」

 ギルドルア様の要求に、ランカーソン伯爵はゆっくりと目をそらした。
 その反応に、私は違和感を覚える。あれは何かやましいことがなければできない反応だ。

「やましいことがなければ、構いませんよね。ああもちろん、今回の事件に関すること以外は見逃しますよ。多少は、ね」
「つ、妻が企てていたのだから、屋敷からは色々と出てくるかもしれない。しかし、それは私には関係ないものだということを留意していただきたい」
「もちろん、状況を見て判断しますよ」
「そ、それでは困るっ……」

 ランカーソン伯爵の動揺は、奇妙なものだった。
 そこで私は思った。もしかしたら、彼は本当に国家に対する反逆を企てていたのかもしれないと。
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