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40.檻の中で

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 私とクルレイド様は、ギルドルア様とともに王城の地下牢に来ていた。
 その奥にある一際大きな牢屋の中には、一人の女性がいる。牢屋の隅で力なく項垂れているその女性は、ランカーソン伯爵夫人であるはずだ。

「クルレイド様……」
「……兄上、あれがランカーソン伯爵夫人なのですか?」
「ああ、そうだとも。彼女は間違いなくランカーソン伯爵夫人だ」

 牢屋の中にいる女性は、私達が知っているランカーソン伯爵夫人とはかけ離れていた。
 確かに面影はあるが、明らかに老け込んでいる。ギルドルア様が彼女にした拷問によって、そうなったということだろうか。

「……ああ」

 そこでランカーソン伯爵夫人は、私達に目を向けた。
 彼女の視線は、焦点が合っていない。私やクルレイド様のことをきちんと認識できているかは、微妙な所だ。

「しっ……知っていることは全て話したわ! ここから出して頂戴! 私は素直に従ったじゃない! これ以上拘束する意味なんてないでしょう!」

 ランカーソン伯爵夫人は、鉄格子を掴みながら必死の形相でそう言ってきた。
 その勢いに、私とクルレイド様は少し怯んでしまう。

「ランカーソン伯爵夫人、あなた程の人がそのように動揺するとはみっともない」
「……あ、あなたは」

 ギルドルア様の言葉に、夫人は目を丸めていた。
 それから彼女の表情は、ゆっくりと変わっていく。老け込んでいるが、その表情は確かにいつもの彼女である。ギルドルア様を見つけて、冷静さを幾分か取り戻したらしい。

「第一王子ギルドルアッ……!」
「おやおや、今度の矛先は僕ですか? しかし、そのような顔をするのはよくない。美しい顔が台無しだ」
「どの口がそんなことを……あなたは! 私を嵌めて……」
「夫人、お見苦しいことを言わないでください。嵌めて嵌められて、私達が生きているのはそういう世界ではありませんか」

 怒る夫人の言葉を、ギルドルア様は受け流していた。
 その態度に、夫人はさらに怒っているように見える。すっかりギルドルア様の戦略に乗せられているようだ。
 こういう時に怒ってしまったら負ける。それは私がかつて彼女に体験させられたものだ。その失敗を夫人本人が犯しているというのは、奇妙なものである。

「あなたは男女の機微には敏感であるが、そういった戦略に関してはからっきしだったようですね……愚かなものだ。もっと貴族を学ぶべきでしたな」
「知ったような口を聞かないで頂戴」
「少なくとも、あなたよりは知っているつもりですが……」

 ギルドルア様は、そこで後ろを見た。
 釣られてみて見ると、そちらから一人の初老の女性がゆっくりとこちらに歩いて来るのがわかった。
 その女性を、私は見たことがない。身なりはいいが、貴族だろうか。
 ただ彼女は、こちらに向かっている。つまり彼女は、ランカーソン伯爵夫人に関わる人物であるのだろう。
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