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37.作られた罪

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「ランカーソン伯爵夫人、あなたはドナテス・マドラド子爵令息に国家転覆を狙っていることを示唆した。その言葉を聞いた彼は、市に参加していたこの私を見かけ連れ去ろうとした。その認識で間違っていませんね?」
「……ギルドルア様、それは誤りです。私は何もしていません」

 ギルドルア様の言葉に、ランカーソン伯爵夫人はゆっくりと首を振った。
 現在、彼女に対する簡易的な裁判が行われている。しかし、それは名ばかりの裁判であるだろう。ギルドルア様の中では、既に彼女は有罪と決まっているのだから。

「それならばランカーソン伯爵夫人、あなたが彼と不倫をしていたことは事実ですか?」
「それは……」
「そちらは認めざるを得ませんか? まあ、そうでしょうね。それに関しては、様々な証言が得られている」
「……確かに、私が彼と関係を持っていたことは事実ですが」

 不倫に関して、夫人は認めるしかなかった。
 私達の前にアルペリオ侯爵令息と一緒に現れたように、彼女は不倫を隠さないのだろう。様々な人に目撃される以上、それを誤魔化すことは不可能なのだ。
 それは彼女の余裕の表れだったのだろうが、迂闊としか言いようがないことだった。こういう時に、彼女は一気に不利になってしまう。

「私は彼にそのようなことを吹き込んだ覚えはありません」
「なるほど、つまりあなたは若い燕に全ての責任を押し付けて逃げようという訳ですか……」
「そんなつもりはありません。事実無根だから、そう言っているだけです」
「あなたは、一人の若い子爵令息の人生を狂わせた! 彼を誑かした罪は大きい」

 ドナテス・マドラド子爵令息は、まだまだ若い。私と同年代くらいの年齢といえるだろう。
 そんな彼が、伯爵夫人に誘惑されて関係を持った。そして彼女に唆されて、犯行に及ぶ。それはとても、自然な流れであるように思える。
 ランカーソン伯爵は、ただでさえいい印象をもたれていない。その中でそんな流れを出されたら、多くの人はそれを信じるだろう。

「兄上は、ずっとこれを狙っていたのか……あのドナテス子爵令息に夫人が粉をかけると予想して、計画を立てて……」
「……ギルドルア様は、用意周到だったようですね。聞けば、彼が夫人と関係していたのは三年間にも及ぶらしいですし、その時から夫人を狙っていた」

 私達が夫人という脅威を認識する前から、ギルドルア様は計画を進めていた。つまり、ランカーソン伯爵夫人は既に追い詰められていたのだ。
 それは、驚くべき事実ではある。ただ、全ては夫人が蒔いた種だ。彼女の自業自得なのである。
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