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35.市での騒ぎ

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 私とロンダーは、クルレイド様とともにとある場所に来ていた。
 そこは、ポルック商会が運営している市である。悲鳴は、こちらの方から聞こえてきたのだ。

「あれは……兄上!」

 クルレイド様は、目を丸くして驚いていた。
 それは当然のことである。彼の目線の先には、身なりの良い若い男性に拘束されているギルドルア様がいるからだ。

「ド、ドナテス、あなた、何をっ……」
「何を? これは、全てあなたの指示ではありませんか?」
「わ、私の指示?」
「ええ、全てはランカーソン伯爵夫人のために! 私はあなたのために、この身を捧げます!」

 若い男性の傍には、ランカーソン伯爵夫人もいた。
 彼女は、かなり動揺している。連れの男性が起こしている騒ぎに、混乱しているということだろうか。

「第一王子がこんな所にいたのは、幸運でしたね……これで、あなたの望みが叶えられる」
「わ、私の望み? あなたは一体、何を言っているの?」
「この国を手に取る。それがあなたの望みではありませんか!」
「そ、そんなこと私は……」
「ラ、ランカーソン伯爵夫人……あなたは、なんということを! まさかあなたがこの国の転覆を狙っていたとは!」
「ギ、ギルドルア様、何を……」

 なんというか、この状況はあまりにも出来過ぎている。
 市に偶々来ていた第一王子が、ランカーソン伯爵夫人が関係を持っているらしい男性に捕まった。そんなことがあるのだろうか。
 この状況は、誰かが作り出したとしか思えない。誰が作り出しているかは明白だ。あそこで捕まっているギルドルア様だろう。

「……しかし残念だったな。このギルドルアは、この程度のことでは沈まない!」
「ぐっ! 貴様!」
「こういう時の対処も、学んでいるのだ!」
「があっ!」

 そこでギルドルア様は、ドナテスの拘束から抜け出して彼を攻撃した。
 その一連の動作は、少しわざとらしいような気もする。私が偏見を持ってしまっているだけなのかもしれないが、やはりこれは仕組まれた状況なのではないだろうか。

「ギルドルア様! ご無事ですか?」
「ああ、僕は問題ない」
「申し訳ありません! 我々の不手際で……」
「気にすることはないさ。僕も無理してここまで来たからね」

 やって来た護衛らしき人達に対して、ギルドルア様は笑みを浮かべていた。
 彼は、その視線を夫人に移す。その目は鋭く彼女のことを見下ろしている。

「まさか、ギルドルア様は既に夫人を排除するために動いていたというの……」

 この状況は、ランカーソン伯爵夫人を陥れるための状況としか考えられない。
 ギルドルア様は既に動き出していたのだ。恐らく私達が動き出すよりも遥か前から。
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