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32.信用できるのは

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「すみません。早とちりしてしまって……」
「いいえ、お気持ちはわかりますから、お気になさらないでください。それより、これからのことを話しましょう。国王様のことは、とりあえず置いておいて……」

 私達に引き止められたクルレイド様は、頬をかきながら苦笑いを浮かべていた。
 しかし彼の気持ちはよくわかる。今までは無理だと思っていたことなのだから、逸る気持ちになるのは当然だ。

「まず前提として、私達には味方が必要です。ランカーソン伯爵夫人を擁護する陣営を、抑えなければなりませんからね。お父様も各所に掛け合ってみると言っていましたが、クルレイド様も誰か心当たりはありませんか?」
「心当たりですか……」

 私の質問に、クルレイド様は微妙な顔をしていた。 
 なんとういうか、心当たりがない訳ではないようだ。ただ、何か言い出しにくい事情でもあるのだろうか。

「心当たりは何人かいます。しかしながら、今の僕にはその人達がどちら側なのか見抜く自信がない。何しろ父上のことも見抜けていませんでしたからね……」
「なるほど……確かに、こちらの動きを彼女に悟られるのは避けたいですからね」
「エルライド侯爵は、その辺りも抜かりないでしょうが、僕の人脈に頼るべきではないかもしれません。ただ、一人だけ心当たりがある人物がいます」

 クルレイド様は、私からゆっくりと目をそらした。
 その後彼は、押し黙る。その人の名前を出すことを、躊躇っているのだろう。

「バルガラス子爵なら、手を貸してくれるかもしれません」
「バルガラス子爵、ですか?」
「ええ、彼はかつてランカーソン伯爵夫人と関係を持っていると噂されている人です。まあ、本当に持っていたと考えていいでしょう」
「そのような人が力を貸してくれるでしょうか?」
「それだけの事情があるのです」

 クルレイド様の表情は、とても暗かった。
 それはこれから話すことが、良いことではないからなのだろう。
 私は、ゆっくりと息を呑む。一体バルガラス子爵には、何があったのだろうか。

「彼の息子……ザルバスも伯爵夫人と関係を持っていました。ただ、彼は夫人から飽きられて捨てられたようです。そしてそのまま……」
「あっ、バルガラス子爵家って、確か……」

 そこで私は、あることを思い出した。
 一年程前だろうか。聞いたことがある。バルガラス子爵家の長男が病気で亡くなったということを。
 しかしそれは、病気などではなかったのだ。彼は恐らく、ランカーソン伯爵夫人に見限られたことを悔やんで、自ら命を絶ったのだろう。

「クルレイド様、その話は本当なんですか?」
「……ザルバスは、気弱な男でした。しかしながら、時々妙に思い切りがいいことがあった。様々な状況から考えて、まず間違いないかと」

 バルガラス子爵家の令息ザルバスについて、クルレイド様はゆっくりとそう語った。
 それは凡そ、知らない人物のことを語る時の口調ではない。故に私は理解した。彼とザルバスという人物との間に、深い関わりがあったということを。
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