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27.伯爵夫人の訪問
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私とロンダーは、ランペシー侯爵とともに屋敷の玄関まで来ていた。
そこには、確かにランカーソン伯爵夫人がいる。そして既に、お父様とアルペリオ侯爵令息も駆けつけているようだ。
「ふふ、これで全員揃いましたね……アルペリオ、探していたわ。あなたが出掛けているっていうから、こんな所まで来てしまったわ」
「ルノメリアさん、どうしてこんな所に……」
流石のアルペリオ侯爵令息も、ここまで来たランカーソン伯爵夫人には驚いているようだ。
しかしランカーソン伯爵夫人は笑っている。以前と同じように、忌々しいくらいに楽しそうな笑みだ。
「ごめんなさい。でも、このことは早く伝えなければならなかったから……」
「伝えたいこと?」
「ええ……あなたにお別れを言いに来たの」
「……え?」
ランカーソン伯爵夫人は、そこで口の端を釣り上げた。
そんな彼女の言葉に、その場にいるほとんどが固まっている。夫人の言葉は、それ程に唐突で衝撃的だったのだ。
「ル、ルノメリアさん、一体何を言っているんですか?」
「言葉のままの意味よ。あなたとはもう終わりにしたいの」
「ど、どうして?」
「もうあなたには飽きてしまったのよ」
「なっ……」
ランカーソン伯爵夫人は、とても楽しそうにアルペリオ侯爵令息を弄んでいた。
私の時と同じだ。彼女は人を虐げることを楽しんでいる。
やはり彼女は、嗜虐的な性格なのだろう。その表情が、それを物語っている。
「あなたとの時間は楽しかったわ。でも、もう終わりなのよ。あなたには興味がないわ」
「そ、そんな……」
アルペリオ侯爵令息は、絶望的な表情をしていた。
それはそうだろう。彼は心底ランカーソン伯爵夫人に入れ込んでいた。そんな彼女からフラれたら、ショックも大きいはずだ。
もちろん彼に同情の余地はないが、それでも夫人の行動には腹が立つ。彼女は、敢えてこの場でそれを告げたのだ。アルペリオ侯爵令息が、最も屈辱を受ける場を選んだのだろう。
「あなたには色々なことを教えてもらったわね。ほら、例えばそこにいるランペシー侯爵が、懇意にしている若い商人から羨望の眼差しを向けられているとは……」
「なっ……!」
「でも、侯爵はそれをわかっていて受け流しているだとか、ふふ微笑ましいですね。でも、もっと微笑ましくないことも知っていますよ?」
そこで夫人は、ランペシー侯爵に視線を向けた。
恐らく、今の牽制であるだろう。ランペシー侯爵家の秘密を握っている。それを示しているのだ。
ランカーソン伯爵夫人は、本当に狡猾な人である。私はそれを改めて実感していた。
ただ、同時に私は気付いていた。
エルライド侯爵――我らがお父様が、彼女に鋭い視線を向けているということに。
そこには、確かにランカーソン伯爵夫人がいる。そして既に、お父様とアルペリオ侯爵令息も駆けつけているようだ。
「ふふ、これで全員揃いましたね……アルペリオ、探していたわ。あなたが出掛けているっていうから、こんな所まで来てしまったわ」
「ルノメリアさん、どうしてこんな所に……」
流石のアルペリオ侯爵令息も、ここまで来たランカーソン伯爵夫人には驚いているようだ。
しかしランカーソン伯爵夫人は笑っている。以前と同じように、忌々しいくらいに楽しそうな笑みだ。
「ごめんなさい。でも、このことは早く伝えなければならなかったから……」
「伝えたいこと?」
「ええ……あなたにお別れを言いに来たの」
「……え?」
ランカーソン伯爵夫人は、そこで口の端を釣り上げた。
そんな彼女の言葉に、その場にいるほとんどが固まっている。夫人の言葉は、それ程に唐突で衝撃的だったのだ。
「ル、ルノメリアさん、一体何を言っているんですか?」
「言葉のままの意味よ。あなたとはもう終わりにしたいの」
「ど、どうして?」
「もうあなたには飽きてしまったのよ」
「なっ……」
ランカーソン伯爵夫人は、とても楽しそうにアルペリオ侯爵令息を弄んでいた。
私の時と同じだ。彼女は人を虐げることを楽しんでいる。
やはり彼女は、嗜虐的な性格なのだろう。その表情が、それを物語っている。
「あなたとの時間は楽しかったわ。でも、もう終わりなのよ。あなたには興味がないわ」
「そ、そんな……」
アルペリオ侯爵令息は、絶望的な表情をしていた。
それはそうだろう。彼は心底ランカーソン伯爵夫人に入れ込んでいた。そんな彼女からフラれたら、ショックも大きいはずだ。
もちろん彼に同情の余地はないが、それでも夫人の行動には腹が立つ。彼女は、敢えてこの場でそれを告げたのだ。アルペリオ侯爵令息が、最も屈辱を受ける場を選んだのだろう。
「あなたには色々なことを教えてもらったわね。ほら、例えばそこにいるランペシー侯爵が、懇意にしている若い商人から羨望の眼差しを向けられているとは……」
「なっ……!」
「でも、侯爵はそれをわかっていて受け流しているだとか、ふふ微笑ましいですね。でも、もっと微笑ましくないことも知っていますよ?」
そこで夫人は、ランペシー侯爵に視線を向けた。
恐らく、今の牽制であるだろう。ランペシー侯爵家の秘密を握っている。それを示しているのだ。
ランカーソン伯爵夫人は、本当に狡猾な人である。私はそれを改めて実感していた。
ただ、同時に私は気付いていた。
エルライド侯爵――我らがお父様が、彼女に鋭い視線を向けているということに。
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