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21.父親とともに

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 アルペリオ兄様がお父様に直接謝罪する。そんな機会は訪れないと思っていた。
 はっきりと言って、兄様がそんなことをする意味はないからだ。あの婚約破棄は、私達との決別を表している。二度と関わらないと決めていなければ、あんな提案はできないだろう。
 しかしながら、アルペリオ兄様がそうであってもそうでない人がいた。その人物とは、彼の父親のオルドーン・ランペシー侯爵である。

「オルドーン……」
「ラングル……」

 二人の侯爵は、向き合ってゆっくりとお互いの名前を口にした。
 侯爵に対してもかなり怒っていたはずのお父様は、微妙な顔をしている。
 当然のことながら、心の底ではかつての親友を憎み切れていないのだろう。今回の件は、彼の息子の暴走である。それはお父様だって、わかっているのだ。

「……いや、エルライド侯爵。今回の寛大な措置には感謝したい。こうして謝罪の機会を与えていただけたのは、ありがたく思っている」
「……ランペシー侯爵、はっきりと言っておこう。今回の婚約破棄に、私は怒りを覚えている。しかしながら、それでもそちらの言い分も一応聞いておく必要があると思って、この場を設けた。ただそれだけのことだ」

 だが、二人の雰囲気は一気に変わってしまった。
 友ではなく、侯爵としてお互いに振る舞うつもりであるらしい。
 それはなんというか、悲しいことである。何もなければ、二人はずっと友達でいられたはずなのに。

「アルペリオ、何を言うべきかわかっているか?」
「……はい、父上」

 その原因であるアルペリオ兄様は、苦虫を噛み潰したような顔でその場に立っていた。
 当たり前のことではあるが、この場にいるのはとても気まずいだろう。だがそれでも、ランペシー侯爵は私達の前に彼を連れてきたのだ。

「エルライド侯爵、この度の無礼な振る舞いを謝罪します。誠に申し訳ありませんでした」
「……」

 アルペリオ兄様の謝罪に、お父様は目を細めていた。
 親友の息子であるため、お父様は兄様のことを買っていた。そんな彼に裏切られて、謝罪されて、何を思っているのだろうか。

「もちろん、謝罪は謝罪として受け止めるとしよう。しかしだアルペリオ、お前は貴族として許されない振る舞いをした。それは覚えておけ。私とお前の父親の間に義理があるからこそ、今回はことがそれ程大きくならず済んでいるのだ。本来であれば、こうはならなかった」
「……」
「この場を設けてくれた父親に感謝しろ。お前は今回の件を反省して、心を入れ替えなければならないのだ。いいか、この失敗を活かす以外にお前に生きる道はない。これは父親に免じて、寛大な措置で済んでいると理解しろ」

 お父様は、アルペリオ兄様に淡々と言葉を発していた。
 そこには、当然怒りの感情がある。だが大人であるお父様は、激昂して怒りをぶつけたりはしないようだ。
 きっとこれは、お父様がアルペリオ兄様にかける最後の言葉であるだろう。それが彼の心に届いてくれていればいいのだが。
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