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19.狂っている関係

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「とはいえ、有力者達も愚かな選択ばかりしているという訳ではない。ランカーソン伯爵夫人の悪辣さを息子に教える者もいるようだ」

 ギルドルア様は、そこで笑顔を浮かべていた。
 彼は、結構顔に出やすい性格であるようだ。先人達の行いに対する表情の変化が、とてもわかりやすい。

「当然のことながら、父親の実感がこもっている言葉を聞いた者は余程のことがない限り、ランカーソン伯爵夫人とは関わらない。僕の友人は、実際にその例だ」
「なるほど……賢明な判断ですね」
「ああ、しかしながら、そのように判断することができない者もいるのは事実だ。その例は、君の元婚約者ということになるだろう」
「アルペリオ兄様ですか……」

 アルペリオ兄様は、まんまとランカーソン伯爵夫人に惚れこんでいる。
 それがどれだけ愚かな選択であるか、ギルドルア様の話を聞いた私は改めて実感していた。

「ランペシー侯爵が夫人と関係を持っていたかどうかはわからないが、どちらにしても息子にその恐ろしさは伝わってなかったという訳か」
「……断言することはできませんが、ランペシー侯爵はそのような方ではないと思います。恐らく、私達のお父様も」

 ギルドルア様の言葉に、私は力なくそう返した。
 その言葉には、願望も含まれている。尊敬している父やランペシー侯爵が愚か者ではない。私はそう信じたいのだ。

「まあ、君の父親達がどうだったかは置いておくとして、アルペリオ侯爵令息はこれから痛いしっぺ返しをくらうことになるだろう」
「弱みを握られる、ということですか?」
「それもあるが……アルペリオ侯爵令息は一番欲しいと思っているものを手に入れることができない」
「それは一体……」
「ランカーソン伯爵夫人からの愛さ。本質的に彼女は誰も愛していない。入れ込めば入れ込む程、危険だ」

 そこで私は、アルペリオ兄様の様子を思い出していた。
 彼は、夫人にかなり入れ込んでいたはずである。あれはとても危険な状態ということなのだろう。

「兄上、しかし彼女の夫であるランカーソン伯爵はどうしているのですか? 妻がそんなことをしているのに、黙っているのですか?」
「伯爵はその点においては、強かな男だ。彼は、妻に対して愛情をまったく抱いていない。彼にとって妻は都合が良い武器でしかない。そういう割り切り方をする男だからこそ、夫に選ばれたのかもしれないな」
「彼女の性質をわかった上で、利用している訳ですか……」

 ランカーソン伯爵夫人は、夫公認で自由を謳歌しているらしい。
 なんというか、彼女に関することは狂っている。夫人の話を聞いて、私はそんなことを思うのだった。
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