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18.怪物
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「ギルドルア様、ランカーソン伯爵夫人とは一体何者なのですか?」
「何者であるか、か……彼女はとにかく厄介な存在だ。関わるべきではない人といえる」
「関わるべきではない人……」
私の質問に、ギルドルア様は再び目を瞑った。
何かを考える時の癖なのだろうか。彼は手を合わせた後、ゆっくりとその目を開く。
「ランカーソン伯爵夫人は、夫人になる前から社交界で有名だった。彼女と噂になった人は数多くいる。肉体関係のあるなしに関わらず、彼女はかなり粉をかけていたようだ」
「……そんなまともではない人に、どうして?」
「その辺りには、僕にも理解できないことではある。彼女の美貌にやられたのか、はたまた話が上手かったのか。当時の有力者達は、こぞって彼女と関係を持ったらしい」
ギルドルア様は、少し人を馬鹿にするような笑みを浮かべていた。
それは恐らく、当時の有力者達を嘲笑しているということなのだろう。
ランカーソン伯爵夫人の性質を考えれば、確かに彼らは愚かな選択をしたと思える。彼女の本質は、見抜けないものだったのだろうか。
「クルレイド、忌々しいことではあるが、その中には我々の父上もいたそうだ」
「え? ほ、本当ですか? 兄上……」
「先人達の浅はかさには嫌気が差すが、ともあれ伯爵夫人は様々な人物に手垢をつけた。それによって彼女は、自らの地位を盤石にした」
「どうしてですか?」
「秘密を握ったからさ」
ギルドルア様は、ゆっくりと立ち上がり窓際まで行った。
彼は、窓の外に視線を向けている。あるいは、また目を瞑って考えているのだろうか。
「伯爵夫人は、この国の有力者達が知られたくないことを知っている。故に誰も、彼女に手を出すことができなくなった。それ所か、何かあったら手を貸さなければならいくらいだ」
「そ、そんな馬鹿な……」
「馬鹿げたことではあるが、実際にそうなってしまっている。過去の愚か者達が作り出した怪物が、彼女なのさ」
ランカーソン伯爵夫人があれ程自信を持っていたのは、どのような振る舞いをしても皆が彼女を守ってくれるからだったようだ。
真偽はともかく、国王様まで秘密を握られている可能性がある。そんな彼女に、一体誰が手を出せるというのだろうか。
「兄上、お言葉ですが、そのような女性が生き残れるとは思いません。誰かに暗殺されるのではないですか?」
「クルレイド、彼女は秘密を人質に取っているのだよ。自分を殺せば、秘密が漏れる。真実はわからないが、そう思わせている」
「なるほど……それは確かに、手が出せませんか」
「ああ、そもそも彼女は曲がりなりにも伯爵夫人だ。その暗殺は簡単なものではない。彼女が生きている限り秘密を守ってくれるというなら、わざわざ手を出そうとは思わないだろう」
ランカーソン伯爵夫人の守りは、盤石だった。
あの歪な夫人は、ギルドルア様の言う通り怪物だ。本当に、なんとも厄介な存在である。
「何者であるか、か……彼女はとにかく厄介な存在だ。関わるべきではない人といえる」
「関わるべきではない人……」
私の質問に、ギルドルア様は再び目を瞑った。
何かを考える時の癖なのだろうか。彼は手を合わせた後、ゆっくりとその目を開く。
「ランカーソン伯爵夫人は、夫人になる前から社交界で有名だった。彼女と噂になった人は数多くいる。肉体関係のあるなしに関わらず、彼女はかなり粉をかけていたようだ」
「……そんなまともではない人に、どうして?」
「その辺りには、僕にも理解できないことではある。彼女の美貌にやられたのか、はたまた話が上手かったのか。当時の有力者達は、こぞって彼女と関係を持ったらしい」
ギルドルア様は、少し人を馬鹿にするような笑みを浮かべていた。
それは恐らく、当時の有力者達を嘲笑しているということなのだろう。
ランカーソン伯爵夫人の性質を考えれば、確かに彼らは愚かな選択をしたと思える。彼女の本質は、見抜けないものだったのだろうか。
「クルレイド、忌々しいことではあるが、その中には我々の父上もいたそうだ」
「え? ほ、本当ですか? 兄上……」
「先人達の浅はかさには嫌気が差すが、ともあれ伯爵夫人は様々な人物に手垢をつけた。それによって彼女は、自らの地位を盤石にした」
「どうしてですか?」
「秘密を握ったからさ」
ギルドルア様は、ゆっくりと立ち上がり窓際まで行った。
彼は、窓の外に視線を向けている。あるいは、また目を瞑って考えているのだろうか。
「伯爵夫人は、この国の有力者達が知られたくないことを知っている。故に誰も、彼女に手を出すことができなくなった。それ所か、何かあったら手を貸さなければならいくらいだ」
「そ、そんな馬鹿な……」
「馬鹿げたことではあるが、実際にそうなってしまっている。過去の愚か者達が作り出した怪物が、彼女なのさ」
ランカーソン伯爵夫人があれ程自信を持っていたのは、どのような振る舞いをしても皆が彼女を守ってくれるからだったようだ。
真偽はともかく、国王様まで秘密を握られている可能性がある。そんな彼女に、一体誰が手を出せるというのだろうか。
「兄上、お言葉ですが、そのような女性が生き残れるとは思いません。誰かに暗殺されるのではないですか?」
「クルレイド、彼女は秘密を人質に取っているのだよ。自分を殺せば、秘密が漏れる。真実はわからないが、そう思わせている」
「なるほど……それは確かに、手が出せませんか」
「ああ、そもそも彼女は曲がりなりにも伯爵夫人だ。その暗殺は簡単なものではない。彼女が生きている限り秘密を守ってくれるというなら、わざわざ手を出そうとは思わないだろう」
ランカーソン伯爵夫人の守りは、盤石だった。
あの歪な夫人は、ギルドルア様の言う通り怪物だ。本当に、なんとも厄介な存在である。
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