上 下
17 / 90

17.王城にて

しおりを挟む
 私とロンダーは、クルレイド様に連れられて王城まで来ていた。
 紅茶を振る舞ってもらったため、今は気持ちは落ち着いている。色々とあって動揺していたが、今は幾分か冷静だ。
 ただ、一つだけ気になっているのは私達に紅茶を振る舞ってくれた人だ。その人物は、クルレイド様の隣で目を瞑っている。眠っている訳ではなさそうだが、何か考えているのだろうか。

「あの、ギルドルア様……」
「うん?」
「その……何を考えているのですか?」

 私が呼びかけてみると、その人物はゆっくりと目を開けた。
 彼の名前は、ギルドルア。この国の第一王子である。
 クルレイド様と王城に着いた時に偶々いた彼は、特に事情も聞くことなく私達に紅茶を振る舞うと言ってきた。少し落ち着いた方がいいということを、彼は見抜いていたようだ。

「君達に何があったのかを考えていたのさ。三人ともひどく動揺している様子だったからね。狐にでも摘ままれたのかと思ったのだが……」
「ある意味ではそうかもしれません。俺達は先程中々に手強い相手と戦ってきましたから」
「ほう?」
「ランカーソン伯爵夫人です。彼女とレミアナ嬢は少し因縁があって……」
「なるほど、そういうことか」

 クルレイド様の言葉に、ギルドルア様はゆっくりと頷いた。
 彼も彼で、なんだか不思議な雰囲気を纏っている。ランカーソン伯爵夫人とは違うが、掴み所がない人だ。

「アルペリオ・ランペシー侯爵令息は、愚かな選択をしたようだね」
「え?」
「ランカーソン伯爵夫人との因縁というと、そういうことだろう? 彼女がどういう人物なのかは、僕も知っているからね」

 ギルドルア様は、そう言って笑っていた。
 その全てを見透かしたかのような笑みに、私は少し驚いてしまう。
 ただ、考えてみれば当然なのかもしれない。私の婚約破棄を知っていて、夫人のことを知っていれば答えは結構簡単に出るような気もする。

「彼女に魅入られたというなら、アルペリオ侯爵令息の不可解な行動にも納得がいく。婚約破棄などという大それたことをしたのはそれが原因か」
「ええ、そうみたいです。それも、かなり入れ込んでいるようで……」
「そうか。またあれの犠牲者が出るとは……色々と噂になっている人物であるというのに、どうしてその危険性がわからないのか少々理解し難いか、災難だったなレミアナ嬢」
「あ、はい。お気遣い痛み入ります」

 ギルドルア様は、ランカーソン伯爵夫人のことをよく知っているようだ。
 それなら彼に、少し話を聞いておいた方がいいかもしれない。今後も何が起こるかわからないし、彼女のことを知っておくことは必要だろう。
しおりを挟む
感想 95

あなたにおすすめの小説

【完結】婿入り予定の婚約者は恋人と結婚したいらしい 〜そのひと爵位継げなくなるけどそんなに欲しいなら譲ります〜

早奈恵
恋愛
【完結】ざまぁ展開あります⚫︎幼なじみで婚約者のデニスが恋人を作り、破談となってしまう。困ったステファニーは急遽婿探しをする事になる。⚫︎新しい相手と婚約発表直前『やっぱりステファニーと結婚する』とデニスが言い出した。⚫︎辺境伯になるにはステファニーと結婚が必要と気が付いたデニスと辺境伯夫人になりたかった恋人ブリトニーを前に、ステファニーは新しい婚約者ブラッドリーと共に対抗する。⚫︎デニスの恋人ブリトニーが不公平だと言い、デニスにもチャンスをくれと縋り出す。⚫︎そしてデニスとブラッドが言い合いになり、決闘することに……。

令嬢は大公に溺愛され過ぎている。

ユウ
恋愛
婚約者を妹に奪われた伯爵家令嬢のアレーシャ。 我儘で世間知らずの義妹は何もかも姉から奪い婚約者までも奪ってしまった。 侯爵家は見目麗しく華やかな妹を望み捨てられてしまう。 そんな中宮廷では英雄と謳われた大公殿下のお妃選びが囁かれる。

結局、私の言っていたことが正しかったようですね、元旦那様

新野乃花(大舟)
恋愛
ノレッジ伯爵は自身の妹セレスの事を溺愛するあまり、自身の婚約者であるマリアとの関係をおろそかにしてしまう。セレスもまたマリアに対する嫌がらせを繰り返し、その罪をすべてマリアに着せて楽しんでいた。そんなある日の事、マリアとの関係にしびれを切らしたノレッジはついにマリアとの婚約を破棄してしまう。その時、マリアからある言葉をかけられるのだが、負け惜しみに過ぎないと言ってその言葉を切り捨てる。それが後々、自分に跳ね返ってくるものとも知らず…。

妹の方が好みなのかと思っていたら……実は

四季
恋愛
領地持ちの家の長女として生まれたリリーナ・フォレストは、家の事情で、同じ領地持ちの家であるノーザン家の長男カストロフ・ノーザンと婚約したのだが……。

私がいなくなっても、あなたは探しにも来ないのでしょうね

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族家の生まれではありながらも、父の素行の悪さによって貧しい立場にあったエリス。そんな彼女は気づいた時、周囲から強引に決められる形で婚約をすることとなった。その相手は大金持ちの御曹司、リーウェル。エリスの母は貧しい暮らしと別れを告げられることに喜び、エリスが内心では快く思っていない婚約を受け入れるよう、大いに圧力をかける。さらには相手からの圧力もあり、断ることなどできなくなったエリスは嫌々リーウェルとの婚約を受け入れることとしたが、リーウェルは非常にプライドが高く自分勝手な性格で、エリスは婚約を結んでしまったことを心から後悔する…。何一つ輝きのない婚約生活を送る中、次第に鬱の海に沈んでいくエリスは、ある日その身を屋敷の最上階から投げてしまうのだった…。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈 
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

妹と寝たんですか?エセ聖女ですよ?~妃の座を奪われかけた令嬢の反撃~

岡暁舟
恋愛
100年に一度の確率で、令嬢に宿るとされる、聖なる魂。これを授かった令嬢は聖女と認定され、無条件で時の皇帝と婚約することになる。そして、その魂を引き当てたのが、この私、エミリー・バレットである。 本来ならば、私が皇帝と婚約することになるのだが、どういうわけだか、偽物の聖女を名乗る不届き者がいるようだ。その名はジューン・バレット。私の妹である。 別にどうしても皇帝と婚約したかったわけではない。でも、妹に裏切られたと思うと、少し癪だった。そして、既に二人は一夜を過ごしてしまったそう!ジューンの笑顔と言ったら……ああ、憎たらしい! そんなこんなで、いよいよ私に名誉挽回のチャンスが回ってきた。ここで私が聖女であることを証明すれば……。

処理中です...