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16.撤退の判断
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「二人とも冷たいですね……まあ、気が変わるということもありますから、今はそれでもいいでしょう」
クルレイド様とロンダーから袖にされたランカーソン伯爵夫人は、それをまったく気にせずにやにやとしていた。
彼女は、アルペリオ兄様の腕に抱き着く。男女の関係を否定していたというのに、その動作には一切躊躇いがない。
「アルペリオ、今日はあなたに慰めてもらわなければならないわね。こんな風に断られるなんて、私は悲しいわ」
「……ルノメリアさん、それはもちろん構いませんが、俺の前でそういう誘いはやめてください」
「あら、あなたもまだまだ子供なのね」
アルペリオ兄様は最早私のことなんて気にしていなかった。他の男性に粉をかけようとした夫人に対して、嫉妬を露わにしている。
その様を見て、私は少し吐き気を覚えていた。よくわからないが、気分が悪い。
「姉上、大丈夫ですか?」
「ロンダー、ええ、大丈夫……」
「クルレイドさん……」
「……ここは退くべきか」
ロンダーの視線に、クルレイド様は少し悔しそうな顔をしていた。
それは私も同じである。ランカーソン伯爵夫人にしてやられてばかりだったため、なんだか負けたような気分だ。
「おや、もうお帰りですか? せっかく市に来たのですから、もう少しゆっくりされたらいいのに」
「……レミアナ嬢、行きましょう」
「……はい」
クルレイド様の言葉に、私はゆっくりと頷いた。
残念ながら、この場で何を言っても彼女のペースは崩せそうにない。悔しい気持ちはあるが、ここは退くのが一番いいだろう。
「レミアナ嬢、大丈夫ですか?」
「ええ、クルレイド様、すみません。それから、ありがとうございます」
「いいえ、お礼を言われるようなことではないですよ。むしろ、助けるのが遅くなって申し訳ありません」
「いえ、私がランカーソン伯爵夫人の挑発に乗ってしまっただけですから……」
歩きながら、私は自分の言動が短絡的であったことを改めて理解していた。
ランカーソン伯爵夫人なんて、気にするべきではなかったのだ。私が反論すればする程彼女は勢いづいていた。冷静に受け流していれば、もっと違う反応だっただろう。
踏んできた場数が違うためか、夫人は強かった。彼女のペースに乗せられた時点で、駄目だったのだ。
「それを言うなら、俺も乗せられていましたよ。ランカーソン伯爵夫人、やはり彼女は要注意人物だ……」
「それにしても、彼女の自信は一体どこから来るのでしょうか?」
「わかりません。ただ、あれはハッタリではない気がします。もちろん、今回のことを俺は各所に訴えかけますが……」
クルレイド様の声は、少しだけ弱々しかった。
それは夫人の謎の自信が、気になっているからだろう。
彼女に何があるのか。それを考えながら、私達は市から立ち去るのだった。
クルレイド様とロンダーから袖にされたランカーソン伯爵夫人は、それをまったく気にせずにやにやとしていた。
彼女は、アルペリオ兄様の腕に抱き着く。男女の関係を否定していたというのに、その動作には一切躊躇いがない。
「アルペリオ、今日はあなたに慰めてもらわなければならないわね。こんな風に断られるなんて、私は悲しいわ」
「……ルノメリアさん、それはもちろん構いませんが、俺の前でそういう誘いはやめてください」
「あら、あなたもまだまだ子供なのね」
アルペリオ兄様は最早私のことなんて気にしていなかった。他の男性に粉をかけようとした夫人に対して、嫉妬を露わにしている。
その様を見て、私は少し吐き気を覚えていた。よくわからないが、気分が悪い。
「姉上、大丈夫ですか?」
「ロンダー、ええ、大丈夫……」
「クルレイドさん……」
「……ここは退くべきか」
ロンダーの視線に、クルレイド様は少し悔しそうな顔をしていた。
それは私も同じである。ランカーソン伯爵夫人にしてやられてばかりだったため、なんだか負けたような気分だ。
「おや、もうお帰りですか? せっかく市に来たのですから、もう少しゆっくりされたらいいのに」
「……レミアナ嬢、行きましょう」
「……はい」
クルレイド様の言葉に、私はゆっくりと頷いた。
残念ながら、この場で何を言っても彼女のペースは崩せそうにない。悔しい気持ちはあるが、ここは退くのが一番いいだろう。
「レミアナ嬢、大丈夫ですか?」
「ええ、クルレイド様、すみません。それから、ありがとうございます」
「いいえ、お礼を言われるようなことではないですよ。むしろ、助けるのが遅くなって申し訳ありません」
「いえ、私がランカーソン伯爵夫人の挑発に乗ってしまっただけですから……」
歩きながら、私は自分の言動が短絡的であったことを改めて理解していた。
ランカーソン伯爵夫人なんて、気にするべきではなかったのだ。私が反論すればする程彼女は勢いづいていた。冷静に受け流していれば、もっと違う反応だっただろう。
踏んできた場数が違うためか、夫人は強かった。彼女のペースに乗せられた時点で、駄目だったのだ。
「それを言うなら、俺も乗せられていましたよ。ランカーソン伯爵夫人、やはり彼女は要注意人物だ……」
「それにしても、彼女の自信は一体どこから来るのでしょうか?」
「わかりません。ただ、あれはハッタリではない気がします。もちろん、今回のことを俺は各所に訴えかけますが……」
クルレイド様の声は、少しだけ弱々しかった。
それは夫人の謎の自信が、気になっているからだろう。
彼女に何があるのか。それを考えながら、私達は市から立ち去るのだった。
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