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13.伯爵夫人

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「これはこれは、あなたはレミアナ・エルライド侯爵令嬢ではありませんか」

 こちらにやって来たランカーソン伯爵夫人は、私にそのように話しかけてきた。
 彼女は、何故か楽しそうに笑っている。それはなんというか、私を少し見下したような笑みだ。

「そういうあなたは、ランカーソン伯爵夫人、ですか?」
「ええ、いかにも。私は、ルノメリア・ランカーソンです」

 夫人は少々大袈裟に身振り手振りを交えながら、自己紹介をしてくれた。
 表面上はにこにことしているが、目が笑っていない。私のことを推し量るように、彼女は目を細めている。
 この一瞬で、私は理解した。目の前にいる女性が、苦手なタイプであるということを。

「……夫人は、どうして私のことを知っているのですか? あなたと会うのは、初めてだと思いますが」
「ふふ、もちろん知っていますよ。アルペリオからよく話を聞いていますから」
「アルペリオ兄様から?」

 アルペリオ兄様の名前が出たことによって、私はひどく動揺してしまった。
 そんな様子が楽しいのだろうか。ランカーソン伯爵夫人は、口の端を釣り上げて笑っている。

「彼とは親密にさせてもらっていますからね。あなたのことを妹のような存在だとよく言っていました」
「……アルペリオ兄様と、どういう繋がりで?」
「友人ですよ? 少し年は離れていますが、私と彼は確かな友人です。それ以上でもそれ以下でもなく、それだけです」
「……本当ですか?」

 私の質問に、夫人は堂々とそう返してきた。
 だが、その答えはそう簡単に信じられるものではない。伯爵夫人と侯爵家の令息、そんな二人が純粋な友人関係なんてあり得るのだろうか。
 色眼鏡で見てしまっているのかもしれない。しかし私は、問いかけずにはいられなかった。

「二人は男女の関係にあったのではありませんか? そういう噂を聞いたことがあります」
「おやおや、ふふっ……」
「何を笑っているんですか?」
「アルペリオが言っていた通り、可愛らしい人だと思っただけです。あの子が婚約破棄するのも当然ですね。あなたは子供ですもの」
「こ、子供……」
「彼があなたと別れたのは、魅力がなかったからに他ならない。それだけのことです。悔しかったら、もっと自分を磨いてくださいな?」

 ランカーソン伯爵夫人は、私を煽っていた。
 アルペリオ兄様を使って、弄ばれている。それを理解して、私は拳を握り締めていた。
 なんというか、色々と屈辱である。こんな人に弄ばれるなんて、どうやら私もまだまだ未熟であるらしい。
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