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11.状況的に

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「クルレイド様、もう少し詳しく話を聞かせていただいてもよろしいでしょうか?」
「え、ええ、それは構いませんが……」

 私の言葉に、クルレイド様は少しぎこちなく頷いてくれた。
 アルペリオ兄様に何があったのか、私はそれが気になっている。
 その鍵を握っているのは、恐らくランカーソン伯爵夫人だ。もしも兄様が彼女と不倫していたなら、それが婚約破棄の直接の原因なのかもしれない。

「しかし、俺が知っていることは本当に噂の断片でしかありませんよ。ランカーソン伯爵夫人が、再び浮き名を流していて、その相手に何人かの候補がいるということだけです」
「その一人がアルペリオ兄様なのですね?」
「ええ、しかしこれはあくまでも噂でしかありません。確証がある訳ではないので、その点はご留意を。こういうことには尾ひれがつくものです。少し話しただけでも、噂になることはありますからね……」

 クルレイド様は、少し自信がなさそうにそう言ってきた。
 彼の言っていることは、確かに正しい。貴族社会というものは、悪意を持って噂を流すものもいる。
 ただ、兄様の場合は状況が状況だ。私と無理に婚約破棄した。それは噂を裏付けるのに充分な要素であるような気がする。

「クルレイド様の言っていることは理解できます。ただ、状況がアルペリオ兄様の不貞を示しています。彼の態度を考えると、その噂は本当である可能性が高い」
「なるほど、それはなんというか……」
「ええ、正直な所、それが本当であるならば、アルペリオ兄様のことを心底軽蔑してしまいます。元々、今回の婚約破棄で少し失望していましたが……」

 私にとってアルペリオ兄様は、尊敬の対象だった。
 しかしその印象がどんどんと変わっていく。もしかしたら兄様は、最低の人間だったのかもしれない。

「姉上、気持ちはわかるけど、ここは抑えて……」
「あ、すみません、クルレイド様。私、つい……」
「ああいえ、気にしないでくださいよ。愚痴くらいなら、俺だって聞きます」

 怒りを覚えていた私は、ロンダーの言葉によって冷静になった。
 ただ噂を教えてくれたクルレイド様の前で怒るなんてみっともない。それは彼に対して、とても失礼な行為だ。

「それに、レミアナ嬢の気持ちはよくわかります。噂が本当であるならば、怒りを覚えるのは当然のことですよ。そもそも、婚約破棄されたこと自体、普通に不快極まりないことですし……」
「ありがとうございます。クルレイド様は、お優しいですね……」
「いや、そうですかね……」

 クルレイド様は、とても優しい人だった。
 その優しさを浴びる度に、自分の行いが恥ずかしくなってくる。
 私はもっと、自分を律する術を身につけなければならない。今回の出来事に、私はそんな教訓を得たのだった。
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